2023年2月10日　第72期王将戦第4局　2日目　東京・立川

　東京は朝から雪だった。対局再開となる午前9時、すでにアスファルトは白く染まっていた。美しくも厳しい都会の雪景色がこれから始まる苛烈な戦いを暗示しているかのようだった。

　立川駅の北側に建つ真新しいホテルの対局室。先に姿を見せたのは王将位にある藤井聡太だった。五冠を保持する20歳は先手番となった第3局、隙を見せずに勝ち切り、番勝負の星取りを2勝1敗とした。また、その勝利によって、この年度における藤井の先手番成績は25勝1敗、勝率は9割6分2厘に達した。インターネット中継では解説者が、藤井の登場が将棋界にもたらした変革について語っていた。

「藤井さんの登場以前は、将棋は間違えるものだった。最後に間違えない人が勝つと考えられていた。ところが、藤井さんは一度も間違えることなく勝ってしまう。たとえ一手であろうとその優位を生かし切ることができる。そんな棋士が現れたこと自体が驚きです」

　藤井の入室から1分後、挑戦者の羽生善治が入室した。鮮やかなグリーンの羽織がモダンなデザインの対局室に映えている。振り返ってみれば、羽生がタイトルを独占していた頃も、羽生の指し手は「正確すぎる」と評されていた。ここまで3局、全て先手番が勝っているというのも、両者の対局ならば当然のことなのかもしれなかった。

　続いて解説者は、この32歳差の両者によるタイトル戦を実現させた羽生にも驚嘆の眼を向けた。

「中原（誠）先生と羽生九段の対局はタイトル戦では実現しませんでした。よくぞ羽生九段がこの対決を実現させてくれたと思います」

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