巨額のカネを動かして狂乱のバブルを謳歌し、共に特捜部に逮捕された兄弟がいた。

 

「私は、すべての控訴事実について無罪を主張します。理事として協賛企業を募る職務に従事したことはなく、理事の職務として取り計らいをしたこともない。企業から受け取った金銭については、民間のコンサルティング業務に対しての報酬であり、あくまでビジネス。理事としての職務に対しての対価ではない」

 12月14日、東京地裁の104号法廷。グレーのスーツに臙脂色のネクタイ姿で法廷に現れた被告の男は、起訴状の朗読の間、証言台の椅子に腰かけ、検察官に睨みつけるような厳しい視線を向けていた。そして裁判長に促される形で立ち上がり、罪状認否に入った時だ。スーツの内ポケットから紙を取り出すと、「読ませて頂きます」と告げ、早口でそう捲し立てたのだった。

 この日、東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、受託収賄罪に問われた大会組織委員会の元理事、高橋治之(79)の初公判が開かれた。

 検察側は、元電通専務の治之を“スポーツマーケティングの第一人者”と呼び、彼がスポンサー企業の選定や公式商品のライセンス契約について“働き掛け”をした見返りに賄賂を受け取ったと指摘。紳士服大手のAOKIホールディングスや出版大手のKADOKAWA、広告大手のADKホールディングスなど5つのルートで捜査を進め、計15人を立件した(うち11人はすでに有罪が確定)。冒頭陳述で明かされたのは、治之が自ら代表を務めていたコンサル会社「コモンズ」などを受け皿に、総額で約2億円の賄賂を受け取っていた克明な経緯だった。

初公判で東京地裁に入る治之(中央)

 治之は、14年6月に組織委員会の理事に就任。組織委員会の役員らは、特措法の規定で“みなし公務員”として扱われ、職務に関する金品の受領が禁じられていた。ただ、定款には理事の具体的な職務が記されておらず、スポンサー企業との契約は理事会に報告されるのみで、元首相で会長の森喜朗に事実上一任されていた。その森が「マーケティング担当理事」として重用し、スポンサー集めを任せていたのが、治之だ。

 スポンサー企業は上位の「ゴールドパートナー」、それに次ぐ「オフィシャルパートナー」、そして「オフィシャルサポーター」の3つに分類され、マーケティング専任代理店に指名された電通が、販売協力代理店のADKや大広などの協力を得て契約獲得に尽力。治之の提案で、それまでの「一業種一社」の原則を撤廃し、国内スポンサー68社から3761億円を集めた。

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source : 週刊文春 2023年12月28日号