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月の「裏側」に着陸 中国の宇宙進出は日本にとって脅威となるか

むしろ注視すべきなのは宇宙インフラの軍事利用だ

2019/01/18

 正月気分のまっただ中の1月3日、中国の嫦娥4号が人類初の月の「裏側(月の自転により常に地球に向いている面は同じであるため地球から見えない側)」への探査機の着陸に成功した。

習近平が目指す「宇宙強国」

 これまで月を周回する衛星で月の「裏側」の観察はできたが、そこに着陸するには地球から電波が届かないため、米ソ宇宙競争時代も誰も到達することができなかった。しかし、それを成し遂げた中国は、明らかに習近平主席が目指す「宇宙強国」になったと言えるだろう。

アメリカの月周回無人衛星 (Lunar Reconnaissance Orbiter, LRO) が撮影した月の裏側 ©NASA

 月の「裏側」に探査機を着陸させ、通信を可能にするため、月と地球の重力が均衡するラグランジュ点(L2軌道)と呼ばれる場所に通信衛星「鵲橋(Queqiao)」を投入し、この衛星を中継して地上との通信を可能にした。これまでラグランジュ点に宇宙観測用の衛星を投入したケースはあったが、こうした実用を目的とした衛星を投入するのは初のケースである。

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 これまでの中国の宇宙開発はいわゆるキャッチアップ戦略に基づき、すでに米ソ(ロ)が実現してきたことを追いかける形で発展してきた。1970年代には実現していた技術であるだけに、中国のキャッチアップの勢いは凄まじく、あっという間に米ロが持つ技術水準に到達した。

嫦娥4号の快挙は極めてオープンになっている

 しかし、問題は追いついた後、中国が何をするのかということであった。2003年には神舟5号で有人宇宙飛行まで実現した中国にとって、次の目標は宇宙探査、まずは誰も到達したことのない月の「裏側」というのはロジカルな発展の帰結であったと言えよう。その意味では、今回の嫦娥4号の快挙は中国の成功でもあるが、人類の成功でもあり、中国も嫦娥4号からの映像を一般公開するなど、秘密主義で情報公開を渋る他のプログラムとは異なり、極めてオープンになっている。

中国の無人探査機「嫦娥4号」が撮影した月の裏側(中国国家航天局より)

 もちろん、それは中国が自らの国力を世界に知らしめるための宣伝行為でもあり、「宇宙強国」として名乗りを上げたと知らしめる意味であることも忘れてはならない。財政的な制約を抱えるアメリカやロシア、日本や欧州を超える勢いがあり、いまや世界のトップを行く存在であることは間違いない。

 加えて言えば、現在、日米欧州とカナダ、ロシアで共同運用している国際宇宙ステーションが2025年に運用を終えれば、世界で有人宇宙滞在が可能なのは2021年か22年に運用が始まる中国の宇宙ステーションのみということになる。さらに、宇宙に飛行士を輸送することができるのは、ロシアと中国だけである。アメリカは民間企業2社が有人輸送を行う計画になっているが、その実現は遅れており、2019年にテスト飛行が始まる予定となっている。このように、宇宙開発では中国の存在感が非常に大きくなっている。