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中央線ユーザーの恐怖 「深夜の『大月行』で終点まで行ってしまったら」をプチ体験

大月駅には何がある?

2019/01/21

genre : ライフ, 社会,

 東京駅からまっすぐ西に向かって駆けてゆくJR中央線。ラッシュ時には大変な混雑を見せる日本屈指の“通勤路線”だ。が、そんな中央線に世にも恐ろしい列車が走っている。東京発大月行の中央特快である。だいたいの列車が高尾や豊田といった東京都内を行き先にしているのに、この大月行中央特快は東京を抜けて山梨県の大月まで行ってしまう。

23時31分東京発、大月行で眠ってしまったら……

 さらに恐ろしいことに、中央特快大月行には23時31分東京発という列車があるのだ。この時間帯の電車に乗る場合というのは、酒をしこたま飲んだりしていることが多い。運良く座席に恵まれて酔いにまかせてぐっすりと眠り込んでしまったら……。終点の大月駅に到着するのは日付も変わった1時10分。もちろん大月駅から戻ったり先に進んだりする電車はない。真っ暗闇の大月駅前にひとり放り出されたら、もう絶望しかないではないか。

山梨県大月市にある大月駅。

 そんなわけで、日常的に中央線を使っている筆者もこの23時31分東京発の大月行には特に注意を払っている。どうしても眠いときには座らずに立つか、他の列車に乗る。眠る場合も降りる駅の手前でスマホのバイブが震えるように設定しておくが、結局恐怖心から睡魔は吹き飛んでしまう。それだけ深夜の大月行は恐ろしい。同じような思いをしている中央線ユーザーもきっといるに違いない。

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JR中央線

“悲劇”に備えるため昼間の大月駅へ行ってみる

 だが、万が一に備えるのも大切である。もしも大月駅まで寝過ごしてしまったとき、事前の予備知識があればいくらかマシだ。そこで今回の「終着駅の旅」ではあえて昼間の大月駅を訪れて、来たるべき悲劇に備えた予習をすることにした。

 さっそく日中の中央線である。最初から大月駅が目的地なら、大月行の電車に乗っても寝過ごしてしまう恐れはない。快調に走って立川や八王子を過ぎ、高尾駅。高尾を出ると、中央線は小仏峠を抜ける長いトンネルに入る。そのトンネルの途中で東京都から神奈川県へ。トンネルを抜けるとそこは雪国……ではないが、それでも東京都内の車窓とは一変した山の中である。

 で、そろそろ駅かなあと思いながら山々を眺めていても、一向に高尾の次の相模湖駅につかない。この駅間、所要時間は実に9分。中央線・篠ノ井線で高尾から松本まで鈍行列車に乗ったとしても、最も駅間所要時間が長いのがこの高尾~相模湖間だ。ここで沿線風景も大きく変わるわけで、同じ中央線に乗っているのにまるで別世界に来たような感覚になる。都会を走る通勤路線から山間を縫って走る山岳路線へ。小仏峠のトンネルは、さしずめ『千と千尋の神隠し』に出てくる神々の世界に通じるトンネルのようなものか。まあ、中央線には湯婆婆もカオナシも出てこないが。

 そうして中央線は山の中を盛んにカーブを繰り返しながら走ってゆく。相模湖駅を出たらすぐに神奈川県から山梨県に入って、あとは桂川(相模川上流)に沿っていくつかのトンネルを抜けながらますます山を登る。途中、四方津駅(しおつと読む)のあたりなどは山の中腹に大きなニュータウンがあって、ここから東京都心へ通勤する人も多いようだ。だから恐怖の電車・23時31分東京発の大月行もその点ではすこぶる便利なのである。