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塾の授業料、年間126万円は妥当か? 教育のプロ2人が中学受験のコスパを考える

『二月の勝者』高瀬志帆さん✕教育ジャーナリスト・おおたとしまささん対談

「君達が合格できたのは、父親の『経済力』。そして、母親の『狂気』」――こんな刺激的なセリフではじまるのは、中学受験塾を舞台にしたマンガ『二月の勝者』。中学受験塾の業界事情や教育制度の変化に戸惑う親、プレッシャーに押しつぶされそうになる子ども……あまりにリアルな描写は、作者の高瀬志帆さんの粘り強い取材から生まれたものでした。

『二月の勝者 ー絶対合格の教室ー (3)』(高瀬志帆 著)

 一方、教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、中学受験関連の書籍を30冊以上執筆している中学受験の専門家。近著『中学受験「必笑法」』では、「中学受験に『必勝法』はないけれど、『必笑法』ならある」と訴えています。高瀬さんは『二月の勝者』を描くにあたって、おおたさんの著書を参考にしたそうです。

 そんな2人に中学受験について語っていただきました。

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中学受験は「セレブのもの」という先入観があった

おおたとしまさ(以下おおた) 『二月の勝者』、とってもおもしろく拝読しました。執筆のきっかけはなんだったんですか?

高瀬志帆(以下高瀬) 日経DUALで『中学受験をしようかなと思ったら読むマンガ』という連載のお仕事をいただいたのがきっかけです。

 それまで中学受験に対する知識がまったくなくて。私自身、地方の公立中、公立高を経て東京に進学で来たので、中学受験って一部の特殊な子どもたちや、セレブがやるものという先入観がありました。

 ところが、『中学受験を~』の原作者の小林延江さんに中学受験の話を伺っていたら、見ている景色が全然違って、すごくおもしろかった。本人の意思と、親の意思とを合致させてやる受験って中学受験くらいなんです。高校受験や大学受験だと、本人の意思がメインになるので。

 それに、中学受験って塾側の視点からは誰もマンガで描いてなかったんですよ。「これは狙いどころでは」という下心もあって、編集者に持ちかけて、塾講師のお仕事ものとして『ビッグコミックスピリッツ』で連載することになりました。

©iStock.com

おおた かなり取材されてますよね。

高瀬 連載準備が1年半、取材自体は足掛け3年くらいです。

おおた リアリティのある描写が何度も出てきて、ひょっとしたら塾講師のご経験があるのではないか、と思うくらいでした。

もっとうまい中学受験の取り組み方があるんじゃないか

高瀬 おおたさんのご著書は、マンガを描いているときに参考にさせていただいていて。参考文献の中に何冊か挙げていますが、実はほかとのバランスの関係で数を絞って掲載していまして、実際にはもっとたくさん拝読しています。

おおた 実は私も、2013年に『もし中学受験で心が折れそうになったら』という、中学受験塾の塾講師を主人公にした小説を出しています。全然売れなかったのですが(笑)、『二月の勝者』の参考文献に載っているのを見て、「こんな形で役に立ったんだ!」と思ってうれしかったです。

 中学受験にはどうにもネガティブな側面がついて回る。もっとうまい中学受験の取り組み方があるんじゃないか、ということをテーマに取材を続けています。