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「死ぬかもしれないときテンションが上がる」雪山登山家の狂気とは――てれびのスキマ「テレビ健康診断」

『クレイジージャーニー』(TBS)

「なぜ人は雪山に登るんでしょうか?」という投稿が『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)に寄せられた直後に放送された『クレイジージャーニー』(TBS)に登場したのが雪山登山家の田中幹也だった。この番組が、常人では理解できないようなことに挑戦する様々な“狂気の旅人”を紹介する番組だというのは、今更説明するまでもないと思うが、今回の田中は、飛び抜けてクレイジーだった。実際、これまで番組に登場したクレイジーな冒険家たちにもクレイジーだと言われる存在なのだ。

 山に登る時は必ず天気図をチェックする。当たり前だ。けれど、田中の場合は目的が普通とは違う。できるだけ安全な気候になるのを待つのではなく、一番荒れそうな時を狙って行くのだ。「死のリスクが身近にあるところで自然と戯れている面白さがある」と。だから、これまで凍傷で足の指を切断したり、頬が腫れ上がった結果、頬の筋肉が目を圧迫し片目が見えなくなったりと、肉体を酷使する。「パニックになる直前、死ぬかもしれないとき、自分の中ではテンションが上がる」のだと言う。まさにクレイジー。

無謀な登山(写真は3/13放送より)

 番組では八甲田山登山に同行。その日の青森には大雪・低温・雪崩・雷の注意報が出ているという悪条件。同行した『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)でお馴染みの国内有数の山岳カメラマン・中島ケンロウも「普通なら登山しない」と語るほどだ。だが、田中は近所へ散歩に行くかのようなテンションで飄々としている。この番組のジャーニーたちは、どこか目がギラギラしている人たちがほとんどだが、彼には、そんな眼光の鋭さはなぜか皆無なのだ。山に足を踏み入れると、視界が白一色で境目がわからなくなるホワイトアウトが常態。そんな中、自分の背丈くらいに降り積もった雪を手で掻き分けながら進んでいく。1時間で進めるのはわずか100mほど。気の遠くなる行程を淡々と続けていく。

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 山頂間近までたどり着くも吹雪がひどくなり、同行ディレクターの安全を考慮し下山を決めた田中。無事スタート地点に戻った矢先、「また1人で入ろうかな」と、今度は1人で再び雪山を登っていくのだ。

 もはや「なぜ雪山に登るのか?」という疑問を投げかけることなど、田中の前ではあまりにも不毛だ。そんなこと理解できるはずもない。「人間としての限界を体験してみたい」と本人は言うが、きっと自分自身だって本当のところはわかっていないだろう。テレビではもう新しいものは見られないなどと言われるが、そうではないことを『クレイジージャーニー』が証明し続けている。世界は広く、人間は奥深い。まだまだ未知で魅力的なものがたくさんあるのだ。

INFORMATION

『クレイジージャーニー』(『テッペン!』内)
TBS 水 23:56~0:55
https://www.tbs.co.jp/crazyjourney/

「死ぬかもしれないときテンションが上がる」雪山登山家の狂気とは――てれびのスキマ「テレビ健康診断」

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