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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『グリーンブック』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

声を上げて泣いた

2019/03/31

「刑事コロンボ」が大好きだった。主人公はよれよれのコートを着たブルーカラーの刑事。犯人のほうは、豪華な調度品に囲まれて暮らす傲慢なお金持ち。コロンボが見事犯人を捕まえるたび、子供心にもワクワクした……。

 さて、この映画は、実話を元にした心温まる音楽ヒューマンドラマだ。

 一九六二年、ニューヨーク。天才黒人ピアニストのドクターは、人種差別がはびこるアメリカ中西部や南部でツアーをすることに。運転手兼用心棒としてイタリア系のトニーを雇い、危険な旅に出た。二人はぶつかりあい、成長し、いつしか深い友情を結ぶのだった。

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 というこの作品は、アカデミー賞など、様々な評価を受ける一方で、スパイク・リー監督を始めとする多くの人から、白人が弱者を救ってあげる“白人の救世主(ホワイトセーバー)”物の典型じゃないかと批判された。

 わたしも、見て、正直「確かにそうだなー」と思った。

 貧しいブルーカラーのトニーと、豪奢な部屋に住むドクターは、コロンボと犯人並みにわかりやすく対比しているし、ドクターが危険な目に遭うたびトニーが助けてあげるという展開も、いかにも下町の白人ヒーローっぽい。

 でも……それでも、素晴らしい映画だった! とくに記憶に残るシーンが二つある。

 一つは、ドクターがあえて南部に旅立った動機。“表現者には才能だけじゃたりない。勇気も必要だ”。彼がピアノの腕前を武器に、社会を変えようとし、無知や偏見、差別意識と戦ったことがわかる。自分の職業にも当てはまるから、あぁ、勇気か……と胸に突き刺さった。

 もう一つは、ドクターの言葉、つまり“心”そのものに触れたとある人物が、ラストで見せた行動だ。わたしは言葉を信じてここまで生きてきたので、“人の本質は肌の色ではなく、言葉に宿る”というこのシーンに、ワッと声を上げて泣きました。

INFORMATION

『グリーンブック』
全国公開中
https://gaga.ne.jp/greenbook/

出典元

奔放プリンセス佳子さまの乱全内幕

2019年4月4日号

2019年3月28日 発売

特別定価440円(税込)