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連載近田春夫の考えるヒット

氷川きよし版『U.S.A.』 狙いはわかるけど盛り込みすぎ…――近田春夫の考えるヒット

2019/04/06

『大丈夫』(氷川きよし)/『唇スカーレット』(山内惠介)

絵=安斎肇

 たまたまTVをつけたら氷川きよしが出ていた。なにか顔の感じが変わったような気がして整形でもしたんかいなと……。そんなことをボンヤリ考えているうちに本人による新曲の“前説”が始まり、なんでも皆さんに覚えてほしい“振り”があるとのことで“OKサイン”を顔の前でヒラヒラさせているうちに準備万端整ったようで、氷川きよしは舞台へと移動していった。

 実は少しまえにネット上で簡単な情報は得ていて、気にはなっていた『大丈夫』だったので、これは良い機会とばかりそのまま番組を観続けた。

 気になっていたというのは、ここのところの氷川きよしの路線のことである。

 たしかに『男の絶唱』など、シリアスな出し物も悪くはない。そうは思いもするのだが、この人の魅力といえばやはりひとつは“ケレン味”というのか、ちょいと面白い企画モノが様になることで、そのあたりは他の若手同業者の追随を許さぬところであろう。

 そうした視点でこの数年のシングル作品の傾向を眺めた時、なにか着々と段々と“大御所感のある世界”に向けて歩を進めていっている風に映らなくもなく、それが結果、自らの(述べた意味での)アドバンテージ/可能性を封印してしまうことにはならないのかなぁ、と思っていた矢先、どうやら今回は老若男女みんなで楽しめる作りの曲らしい。親しみ易さが売りというではないか。これは朗報だ。

大丈夫/氷川きよし(日本コロムビア)来年デビュー20周年。作曲は『箱根八里の半次郎』『きよしのズンドコ節』の水森英夫。

 なんだかだいいつつ、こんな閉塞感漂うご時世である。氷川きよし持ち前のあの歌声でもって、世間を少しは陽気にさせてくれるのかどうか?

 以下は、そんな訳で一種期待を込め、画面にて歌う姿を追いながらの印象である。

 結論から申せば「気持ちはわかる!」のひとことであった。すなわち、何を狙ってどういったカタチの商品に仕上げたかったのかといった事情は、音楽的にもまた視覚的にも、いや、痛いほどによく伝わってきたのだが……。

 やろうとしたのは氷川きよし版『U.S.A.』だったと思う。その目の付け所や良し、とは思った。ただ、残念なのが着地のバラけてしまったことである。慣用句でお馴染みの、正に「船頭多くして……」の状態になっているのである。

 先程話した“振り”にしても“OKサイン”ひとつに注目が行くようにすればいいものを、パッと見ただけでも、DA PUMPは勿論、マツケンにドリフと、よくいえば“美味しいとこどり”なのだが、この満艦飾ぶりには、さすがに見ていてもいくらなんでも気忙しさを感じてしまう向きも多いだろう。一体いつどのタイミングで“OKサイン”を出せばいいのか?!

 楽曲にも同じことがいえて、歌にも振りにもここまで色々と要素が入って来ると、主たる購買層のご婦人方が楽しむのには相当の学習が――この場合老婆心ながらは多分違うよね――必要だろうと心配だ。

唇スカーレット/山内惠介(ビクターエンタテインメント)氷川きよしと同じく水森英夫門下の山内。本曲の作曲も水森英夫。

 山内惠介。

 今この人に一番求められるのは、強気さと意外性では?

今週のビール「サントリーのザ・プレミアム・モルツの“〈香る〉エール”っていう青いの。見た目、第3のビールっぽいなと思っていたんだけど、飲んだら、味まで似ていてびっくりだよ。確かにこれだけ第3のビールが普及したら、そっちの味が好きな人もでてくるよね」と近田春夫氏。「そこに目をつけて、高級ビールでやってみせるとは、さすがサントリー!」

ちかたはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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出典元

奔放プリンセス佳子さまの乱全内幕

2019年4月4日号

2019年3月28日 発売

特別定価440円(税込)