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連載僕が夫に出会うまで

ゲイの僕が高校を卒業し、東京へと降り立った日

僕が夫に出会うまで #20

2019/04/11

連載「僕が夫に出会うまで」

 

2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのかを綴るエッセイ。毎週連載。

 

(前回までのあらすじ)スピリチュアルブームの真っ只中、高校生の僕は前世を見てもらおうと、有名なスピリチュアルの先生を紹介してもらう。「あなたはどこにいっても大丈夫」と声をかけられ、上京を控えた僕は救われた気持ちになった。

 

(前回の記事「美輪明宏さんの言葉に救われた僕が、自分の前世に納得した日」を読む)

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 自由奔放な高校生活を謳歌していた僕だったが、高校を無事に卒業することができた。

 翔も、僕も、ギリギリの卒業だったと先生は言ったが、卒業には変わりない。僕は、生まれ育った北海道から東京へと旅立つことになった。

  東京で1年間は男子寮に住むことが決まっている。最初は入寮の手続きなど、何かと親の協力が必要なので、母と2人で東京へ向かうことになっていた。

©平松市聖/文藝春秋

いつもと変わらないよう、笑いが絶えないように

 旅立ちの日、健康ランドで仲良くなったお客さんが大きな車を出してくれて、高校3年間クラスが同じだった翔や、恋のライバルだった愛、1組の由貴や3組のアッコが車に乗った。健康ランドのバイト仲間が空港まで見送りに来てくれるのだ。

 小学生時代の女友達も僕の家までお別れに来てくれた。

 空港へ向かう車の中はいつもと変わらないよう、笑いが絶えないように、みんなが気をつけていた。まるで、別れの悲しみなど、ないかのように。

「東京に行って、七崎がイヤな都会人になっちゃったらどうしよっか!」

  翔が意地悪っぽい笑顔で言うと、愛がすかさず答えた。

「ななぴぃなら、すぐそうなっちゃうよ! 『愛は田舎臭いから、近くに寄らないでくれない?』って、私言われちゃいそう。最悪~」

「ななぴぃがそうなったらなまらウケる!」

  アッコがそう言って笑った。

「アッコ、東京では“なまら”って言わないんだよ。そんな言葉を使うのは田舎者だからやめていただけるかな?」

僕がそう言うと、

「うわ~! もう都会人ぶってる! なまらムカつく~」

「“なまら”を、東京人はなんて言うんだ? “とても”とか言うんじゃないの?」

「でもアッコはほんとに田舎者じゃん。だってアッコの家のまわり、夜になると真っ暗だよ?」

「やめて~、なまらやめて~」

 アッコは由貴をぺちぺち叩きながら笑った。みんな口数が多く、はしゃいでいた。このメンバーでいると、くだらないことでもずっと笑っていられる。

 それでも、別れのゲートが少しずつ近づいていることを、僕らはみんなわかっている。このメンバーではしゃぐことも、もしかしたらこれが最後かもしれない、誰もがそう思っていた。