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アニメ制作会社「マッドハウス」社員は月393時間働き、帰宅途中に倒れた

過去には過労自殺も。知られざる「制作進行」の悲痛な叫び

ある朝、道路上でぶっ倒れてしまった

 そして、激務の最中、ついにAさんが病院に運び込まれるという出来事まであった。

「後半話数の担当をしていたのですが、アニメの設計図に当たる『絵コンテ』ができあがったのが放送日の1カ月前。そこから本編制作が始まりますので、通常3カ月のスケジュールを1カ月間でこなさなければいけない。スタート直後の1話目、2話目ぐらいは余裕を持って作れるんですが、徐々に後半話数にしわ寄せがいって、最後はもう総力戦です。家には風呂に入りにいくだけ、会社で3日間寝泊まりする。そんな日々が続きます。

 ある朝、7時ぐらいにアパートへ帰ろうとしたところ、空腹と疲労と眠気が重なって、あまりにやることが多すぎて頭が混乱している状態でもあり、道路上でぶっ倒れてしまいました。たまたま自転車で通りかかった警察官が救急車を呼んでくれて、病院に担ぎ込まれたのですが……。すぐに目を覚ましたものの、『過労ですね』ということで点滴を打たれて、救急車代1万円を支払うとそのまま帰されてしまったんです。さすがに『1日ぐらい入院させてくれないのかなぁ』と恨めしく思いましたよ」

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 Aさんが帰宅後に会社に電話をすると、「じゃあ、今日は1日休んでください」と言われた。放送の1週間前に倒れたので、残りは5日間。Aさんは、翌日から再び出社して働いた。

「こうした滅茶苦茶な状況下でも、最終工程の『ラッシュ(試写)』で監督は容赦なく作画リテイクの指示を出し、プロデューサーもクオリティ維持のため、それを容認します。『これじゃ帰れない。我々を殺す気か……』とも思いますが、命令である以上、制作進行と社内スタッフが納品直前まで不眠不休でリテイク作業を行い、『作画崩壊』とは言われない水準まで映像を直して、放送を迎えます。そうして『今回もなんとかなったんだから、これからも大丈夫だろう』と上層部に勘違いされて、現場が一向に改善されないのがシャクですね」

「定額働かせ放題」で300万円の未払い残業代

 その後、Aさんは心療内科で「心因反応」と診断される。治療を受けて、仕事をしながら約2カ月間にわたって薬を飲み続けた。なんとか回復後、ブラック企業ユニオンに加盟。団体交渉の準備を進めると同時に、ユニオンのサポートを受けながら、新宿労働基準監督署へ実名申告をした。

 そこまで身を削りながらも、Aさんの手取り給料は19万円ほどだという。時給に換算すると最低賃金を下回るレベルだ。ブラック企業ユニオンの坂倉氏が語る。

「マッドハウスは『時間外労働手当と深夜労働手当として、それぞれ50時間分の固定残業代を支払っている』としているようですが、50時間を超えて残業しても、残業代は1円も増えません。『定額働かせ放題』です。そもそも『固定残業代』について、入社前の説明は一切ありませんでした。計算すると300万円の未払い残業代が発生していると考えられます」