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アニメ制作会社「マッドハウス」社員は月393時間働き、帰宅途中に倒れた

過去には過労自殺も。知られざる「制作進行」の悲痛な叫び

マッドハウスの回答は……

 現在、Aさんは会社側に対して団体交渉を申し入れている。その中では、長時間労働の是正、残業代の未払いに加えて、パワハラについても訴える予定だという。

「忙しい状況になるので、当然ですが監督や社員は怒りっぽくなります。社内で怒鳴られることもありましたし、プロデューサーからも『(ミスを)今度やったらぶっとばすぞ!』『原画がまき終わるまで家に帰るんじゃない』と言われたこともありました。きちんと認めた上で謝罪してほしいですね」(Aさん)

 原画や動画を担当するアニメーターの多くはフリーランスであり、その低報酬はかねてから問題視されてきた。しかし、マッドハウスの正社員であるAさんのような立場もまた、「働き方改革」の波から取り残されてはならない。

「アニメ制作会社のブラックぶりは一般にも知られつつあり、『業界の体質』として必要悪のように受け止めている人も多いのではないでしょうか。確かに、経営者による自発的な改善や、労基の指導にばかり期待しても、表面的な是正をされるのが関の山です。働いている労働者自身の中から少しずつ声を上げる方が出てくれば確実に変化があるはずです。

 実は現在、別の制作会社の方からも相談を受けています。ブラック企業ユニオンは、一人から加入することができます。労働環境に悩んでいるアニメ業界の方は、まずは一度相談にきてほしい」(坂倉氏)

 マッドハウスにAさんの長時間労働、残業代未払い、今後の労働環境の改善について質問したところ、「長時間労働や賃金の支払いについて労働基準監督署からご指摘を受けました。このご指摘に従い、適正に対処してまいります」との回答があった。

©文藝春秋

毎年のように「インパール作戦」をやっている

 Aさんは、本来ならば「夢」を与える仕事であるアニメ制作会社の現状に強い危機感を持っている。

「今回の一件は、私とマッドハウスだけに限った話ではありません。同じ社内の制作進行も、特にTVシリーズを担当していれば100~200時間以上の残業は強いられます。下請けの制作会社には、タイムカードすらないと聞きます。

 アニメ業界で働く人間は、当然ですが多かれ少なかれアニメ好きがほとんどです。ただ、濃淡はあります。私もアニメは好きですが、衣食住を犠牲にしてアニメを作るという感覚はありません。あくまでも一つの『仕事』として向き合っているつもりです。

 結局、アニメ業界は毎年のように無謀な『インパール作戦』をやっているわけです。2010年に、別のアニメ制作会社で月600時間働いた制作進行の社員が自殺して、のちに過労自殺として認定されました。高校生くらいのときでしたが、その新聞記事の切り抜きは、いまも持っていますよ。アニメ業界を志していた私は、『なんで好きなものを作っている人が死ななければならないのか』と強烈に疑問を感じたことを覚えています。

 そんな悲劇はあってはならないと思います。自分にできることがあれば、少しでもアニメ業界を改善したい。その思いは当時から変わりません」

 アニメは多くのファンに支えられる産業であると同時に、政府が推し進める「クールジャパン戦略」の主要コンテンツでもある。そこで働く人々がきちんと報いられる仕組みづくりなしには、魅力的な作品を継続的に生み出していくことはできなくなってしまう。マッドハウスは、Aさんの訴えにどう向き合っていくのか。日本のアニメ業界にとって試金石になることは間違いない。

〈アニメ制作の長時間労働を抜本的に変えるつもりはないのか――「マッドハウス」現役社員インタビュー〉も併せてお読みください。