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アニメ制作の長時間労働を抜本的に変えるつもりはないのか――「マッドハウス」現役社員インタビュー

自問自答の末、制作進行・Aさんは会社に団体交渉を申し入れた

 アニメ制作会社「マッドハウス」で制作進行として働くAさん。多い月には1カ月間の総労働時間が393時間に及び、帰宅途中に倒れ、救急車で病院に運び込まれることもあったという。

 現在、Aさんは、会社側に対して長時間労働の是正と未払い残業代の請求、パワハラの謝罪などを求めて団体交渉を申し立てている。その思いの丈を聞いた。

 

アニメ制作会社「マッドハウス」社員は月393時間働き、帰宅途中に倒れた〉と併せてお読みください。

『宇宙戦艦ヤマト』でアニメーターを志して

―― アニメ制作会社に入った経緯を教えてください。

 Aさん 一番のきっかけは、子どものころに『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)を見たことでしょうか。家にレーザーディスクがありまして、幼稚園の頃から見ていました。基本SFアニメが好きなんです。

 もともと絵を描くのが得意だったこともあり、それで中学生ぐらいからアニメーターを志すようになりました。

―― なぜ「制作進行」の職種だったのでしょうか。

 Aさん 美大の授業で実際に絵を1枚1枚描いて動かしてみて、アニメーターよりも作品全体への演出に興味が出てきました。妄想が好きなので絵コンテを描く際にそれを活かせたらなぁ、と(笑)。制作進行ならば、アニメーターと違って出来高制ではなく月給制ですし、TVアニメや劇場アニメの全制作工程に関われます。そこで、制作進行を経てアニメの演出になりたい、と個人的な職業目標を立てました。

現在もマッドハウスで制作進行として働いているAさん ©文藝春秋

「定時」は有名無実化しています

―― マッドハウスについては、入社前と入社後ではイメージが変わりましたか。

 Aさん もともとは『時をかける少女』や『サマーウォーズ』など、私も知っている作品をいくつも手がけている大手の制作会社という印象でした。アニメ業界が激務だとは知識として知っていましたが、日本テレビの子会社ですし、会社説明会で社長や社員の方に実際に会って温和そうだったので大丈夫だろうと思っていました。ちょっと認識が甘かったですね。業界内では「マッドハウスはホワイト企業」と言われているそうですが……。

マッドハウス本社 ©文藝春秋

―― 就業時間の定時はあるのでしょうか。

 Aさん 就業規則上は10時から19時ですけれど、実際の出退勤は各自の判断にゆだねられています。ほとんどの社員は昼過ぎに出勤してきますが、基本的には後ろが長いので「定時」は有名無実化しています。

―― タイムカードはありますか。

 Aさん ウェブブラウザで出退勤を記録するシステムがありますが、みんな「どうせ残業代は出ないから」とあまり正確につけていない。私はきちんと記録していましたが。