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もう二度と演出にはなれないんじゃないか……

―― 労働組合に入って、会社側と交渉するに当たっては、さまざまな反発もありそうです。

 Aさん 2019年3月にブラック企業ユニオンに加盟するまで、色々と悩み続けました。その間、労基署、弁護士、社労士、区の相談窓口とあちこちへ相談にも行きました。同僚や先輩後輩とはもう普通に話すこともできなくなるんじゃないか、勤務中に様々な嫌がらせを受けるんじゃないか、「組合の人間」というレッテルを貼られて転職もできなくなるんじゃないか、二度と演出にはなれないんじゃないか……。何度も自問自答しました。

 そうした中、社内で「働き方改革への対応」という説明会が開かれたのです。例えば、会社から「ホール会議室をラウンジに改装します」という提案がありました。労働時間を短くするかわりに勤務中に多く休憩を取ったことにして、「実働時間」を短くしたいという意図があるようです。

 他にも「土日出社で発生する代休を買い取ります」、「有給を5日必ず取得してもらいます」といった話がありましたが、どれも「そうじゃねぇよ!」と叫びたくなるようなトンチンカンな対応ばかり。「現在のアニメの作り方と制作進行の長時間労働を抜本的に変える取り組みをしないんだな」、「未払いの残業代についても放置するのか」と落胆して、今回の団交に踏み切りました。

「マッドハウスを潰すつもりか」という声もありますが、そういうつもりはまったくありません。きちんとした労働環境にしたい、という真っ当な思いだけです。

©文藝春秋

片っ端から電話をかけて原画マンに「営業」

―― なぜそこまで制作進行は激務なのでしょうか。

 Aさん アニメの制作には社内外の多くの人が関わっていますが、その全行程の調整役となるのが制作進行です。詳しくは概要を別表にまとめましたが、業務内容も多岐にわたります。

 とりわけ重要なのが、作画・撮影関係ですね。私たちは、脚本にもとづいて描かれた絵コンテができたら、知っているフリーランスの原画マンや中国、韓国の会社へ「営業」をかけます。片っ端から電話をかけて、「これできませんか」とお願いしていく作業です。1話分の300カットを10~20人に分担してもらうのです。

アニメ制作工程における制作進行の業務内容(Aさん作成)

―― そこは固定のメンバーではないわけですね。

 Aさん 本当に自社作品くらい自社スタッフで作れないのかなって思いますよね(笑)。

 ほとんどの原画マンは、その都度集める「傭兵」のようなイメージです。原画は基本的に1カット4000円から5000円程度。だから、10カット描いたとしても5万円です。同じ1カットでも描いてもらう原画の枚数はシーンによって異なります。キャラクターが首から上しか映っていなくてパクパクしゃべっているだけなら簡単ですが、5人が殴り合いのバトルをしているようなシーンだと10枚、20枚も原画を描くわけです。それでも単価は一律です。当然、みなさん他の作品と掛け持ちしています。