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ジャイアンツは30分前行動が基本……プロ野球界が遅刻に厳しい3つの理由

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/01
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 4月27日の楽天―ロッテ戦。タレントの鈴木奈々さんが登場した始球式の影響で試合開始が4分遅れた。ネットを中心にバッシングが広がり、翌日にはスポンサー企業が謝罪コメントを発表する事態に発展。なかなかボールを投げようとしなかった鈴木さんの振る舞いの是非はともかくとして、3時間以上も試合をするのだから4分ぐらい、と思わないでもないが、それが野球界の感覚なのである。

 プロ野球界で、遅刻は大罪だ。一般企業では一度遅刻しただけで降格や減給ということは考えにくい。というか、朝起きて「あ!(死んだ)」となったとしても、具合が悪そうな声で「体調不良のため午前半休させてください」と電話し、マスクをつけて出勤すれば一件落着となるケースもある。ところが、プロ野球界ではそうはいかない。遅刻は問答無用で罰金となるチームがほとんどだし、遅刻しただけで即2軍降格ということもまったく珍しくない。遅刻そのものが“ニュース”となり、まるで犯罪者のような扱いを受けてしまう厳しさだ。近年でも、

2015年3月、ソフトバンク・松坂が36分の遅刻で罰金18万円
2018年2月、ロッテ・田村が遅刻で即2軍行き

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 といった事件があった。ほかのチームでも、度重なる遅刻のカドで、寮周辺の掃除を命じられていた選手を見たことがある。「紳士たれ」の巨人はもちろん特に時間に厳しく、ジャイアンツタイム、という言葉まである。だから巨人の選手たちはとにかく行動が早い。

 先日、堀内恒夫さんがブログで「ジャイアンツタイムは10分前集合が基本」と書かれていたが、体感的にはもっと早い。決められた集合時間の30分前が「本当の集合時間」といっていいぐらいだ。例えばバスの出発時間が13時だとすると30分前にはほとんどの選手がバスに乗り込んでいる。ホテル→バス、バス→ダグアウトといった移動のタイミングは貴重な取材時間でもあるので、番記者たちもジャイアンツタイムに準じて動くことになるが、他球団の担当から変わってきたばかりの記者は面食らってしまう。

バスに乗り込む阿部慎之助(※遅刻はしていません)

なぜ遅刻に厳しい文化が出来上がったのか

 ではなぜ、そこまで遅刻に厳しい文化が出来上がったのか。大きく分けて3つの理由があるように思う。

① 上下関係が厳しく、中学・高校時代からめちゃくちゃ管理されているから

 プロ野球選手を何人も輩出した高校野球の指導者はこう言っていた。「挨拶と時間厳守だけは野球界は絶対にどこにも負けない」。高校の野球部は連帯責任制をとっていることが多く、自分が遅刻や門限破りなどで規律を乱せば、同期全体にペナルティというシステムも珍しくない。そのプレッシャーと恐怖によって支配された経験が、プロになってからも続く「遅刻は大罪」という意識につながっている。ちなみにプロ野球界は挨拶に関しても時間と同じぐらい厳しい。グラウンドのはじに同じ大学の先輩を見つければ走って行って挨拶。OBがグラウンドに来たらヘルメットを取って握手。なんだかんだいって体育会系で真っ直ぐな人が多いことも含め、プロ野球は高校の部活の延長線上にあると感じる瞬間である。

② 軍隊だから

 軍隊では隊員の一人の行動が遅れたら、隊全体が危険にさらされたり、全滅したりしかねない。だからこそ、厳しい戒律で隊全体を引き締める。プロ野球も1年間ほぼ同じメンバーで団体行動をし、他チームとの抗争を繰り広げるという意味で、軍隊に近いものがある。監督のことを指揮官、闘将、知将などと呼ぶし、そもそも読売巨人「軍」というぐらいだからほぼ軍隊なのである。なのだろう。

③ プロフェッショナルの集団だから

 チームには70人もの支配下選手がひしめき、育成枠の選手も控える。プロ野球のユニホームを勝ち取るほどの実力者が自分の出番を今か今かと待っている。本当の意味で余人をもって代えがたい選手など一握りであり、機会さえもらえれば、という選手はたくさんいる。だからこそ、素行などの問題で足元をすくわれるわけにはいかない。もちろん結果を出したものが偉い世界だが、まずルールを守らなくては結果を出すための土俵に上がる資格も得られないのだ。

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