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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『希望の灯り』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

「壁崩壊後」の子供

2019/04/28

 外国の映画を観るのが大好き。この作品がなかったら一生知らなかっただろうな、ということがたくさんある。『小さな中国のお針子』では、文化大革命下の若者たちを垣間見たし、『青いパパイヤの香り』では、ベトナムの少女料理人の包丁さばきにうっとりした。歴史の授業ではなかなか覚えられなかった世界の近代史も、脳内で映画とセットになってるところだけは、ドラマチックにちゃんと記憶している。

 さて、この映画は、旧東ドイツのある町を舞台にした、一人の青年の美しくも静謐な成長物語なのだ。

© 2018 Sommerhaus Filmproduktion GmbH

 主人公は二七歳のクリスティアン。無口だが心は詩情であふれている。元不良で、腕に入っているタトゥをシャツを引っ張って隠し……ても隠しきれないまま、畑の真ん中に建つ巨大スーパーマーケットで働き始めたところ。

 五〇代の先輩ブルーノに作業を教わるうち、疑似父子関係のような絆を感じるようになる。また、お菓子売り場で働く年上の人妻マリオンには密かな恋心を抱くように。

 二七歳ということは、彼はベルリンの壁崩壊(一九八九年)後に生まれた子供だ。そんなクリスティアンの焦燥感溢れる横顔は、東ドイツ時代の何気ない日々が忘れられないと嘆くブルーノとも、独特の陰がある人妻マリオンとも異なって見える。その正体を見極めたくて、わたしはスクリーンに目を凝らした。

 詩人の心は、ドン詰まりの街をきらめく小宇宙に染めかえていく。真夜中のフォークリフトなど、映像もすばらしく美しい!

 やがて、人生を教えてくれた年上の男は永遠に去り、青年は大人になる。手に入らない女マリオンに対しても、成熟した男の包容力をもって静かに見守り始め、観客をはっとさせる。

 監督、原作者ともに旧東ドイツ出身。原作小説(クレメンス・マイヤー著、新潮クレスト・ブックス『夜と灯りと』収録の「通路にて」)もぜひ。

INFORMATION

『希望の灯り』
Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開中
http://kibou-akari.ayapro.ne.jp/

出典元

新天皇を悩ませる秋篠宮さま「即位拒否」 雅子さまのご体調

2019年5月2・9日号

2019年4月25日 発売

特別定価460円(税込)