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甘く見てはいけない「高齢者の転倒」のリスク

転んだ直後は平気でも、後で悪化するケースも

2019/07/04

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提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

転倒などが原因の死亡は思いのほか多く、交通事故死の約2倍(※1)になるという。血を固まりにくくする抗血栓薬を服用していて頭をぶつけると症状が悪化しやすいため、注意が必要なことを啓発する“Think FAST”キャンペーンが始動。実行委員長でもある山口大学脳神経外科学鈴木倫保教授に話を聞いた。


転んだ本人が平気だと言っていても、 後で悪化するケ一 スも。頭を打った場合は家族からも診察を受けるように勧めてほしい
転んだ本人が平気だと言っていても、 後で悪化するケ一 スも。頭を打った場合は家族からも診察を受けるように勧めてほしい

転倒死は交通事故死の2倍

“Think FAST”キャンペーン実行委員長
山口大学大学院 
医学系研究科
脳神経外科学 教授 鈴木倫保
“Think FAST”キャンペーン実行委員長
山口大学大学院 
医学系研究科
脳神経外科学 教授 鈴木倫保

 ちょっとした段差につまずいたり、家の中で滑って転んだり、家具などに頭をぶつけることは少なくない。転倒は、誰にでも起こる“ありふれた事故”だが、実は転倒や転落による死亡は多い。厚生労働省の平成29年人口動態統計(確定数)の概況によれば、転倒や転落による死亡者数は交通事故死の約2倍で、その数は年間約1万件に上る。

 特に転倒による死亡が多いのが65歳以上の高齢者。日本脳神経外傷学会の「日本頭部外傷データバンク」によると、重症頭部外傷患者の半数以上が65歳以上の高齢者だった。「高齢者の方は、若年者では問題にならないような軽い転倒で頭をぶつけただけでも重症化しやすいのです」と鈴木教授は警鐘を鳴らす。

 高齢者は、筋力の低下や関節の可動範囲が狭くなるなどで転びやすい。それに加え、高齢者は転倒時に頭の中の血管が切れやすい特徴がある。「実は脳は頭蓋骨の中で浮いており、そもそも頭を振れば動くのです。加齢により脳が小さくなった高齢者では、頭蓋骨と脳の間の隙間が大きく脳がより動きやすい。そのため、転倒や頭部を打った時の衝撃で、頭蓋骨の内側にある硬膜から脳に伸びている血管が切れやすいんです」(同前)。血管が切れた際、血液はまず頭蓋骨と脳との隙間に溜まるので、脳に影響が出て症状が出るまでに時間がかかるのも特徴だ。

 さらに、高齢者は様々な持病があり、特に脳梗塞の原因となることが知られている心房細動患者数は増加している。患者数は2020年に約100万人に達するとの予測もある(※2)。脳梗塞を予防するには、血を固まりにくくする抗血栓薬の服用が必要だが、一方、転倒などにより出血が起きた際には血が止まりにくい。「抗血栓薬を服用する人が多いのも、転倒時のリスクを上げる原因です」(同前)。実際65歳以上の重症頭部外傷患者のうち、抗血栓薬の服用者の割合は約30%にも上る(日本頭部外傷データバンク)。

「抗血栓薬を服用している人が頭部外傷を負ったとき、外傷を受けた直後は問題なく会話が出来ても、数時間経つと急速に意識障害が出て症状が悪化する『Talk&Deteriorate』が発現する率が高まります」と鈴木教授は警鐘を鳴らす(下のグラフ参照)。

抗血栓薬の服用者は非服用者に比べ、頭部外傷を受けた直後には問題なく会話ができるものの、時間が経つと急速に意識障害が出て症状が悪化する「Talk & Deteriorate」の発現率が高い。(データ:日本頭部外傷データバンクP2015)
抗血栓薬の服用者は非服用者に比べ、頭部外傷を受けた直後には問題なく会話ができるものの、時間が経つと急速に意識障害が出て症状が悪化する「Talk & Deteriorate」の発現率が高い。(データ:日本頭部外傷データバンクP2015)

転倒による危険性の理解を

 転倒時はどのような対応をすべきか。「まず重要なのが、軽い転倒であっても『自分や家族が見て、普段と少しでも違う様子があれば、すぐに医療機関を受診すること』が大切です。転倒時は普通に会話ができ、体を動かせても、症状が急激に進むことがあるからです」(同前)。特に抗血栓薬を服用している場合には、受診時に必ずそのことを医師や看護師に伝え、「できるだけ早く画像診断で出血の有無を確認してもらう」ことも大切だ。

 年をとると、転んだことに対する気恥ずかしさもあり、「受診なんて大げさな」とそのまま放置してしまいがちだが、高齢者は脳の構造から出血が起きていてもすぐには症状が出ないことが多い。一方で、症状が出た時には出血が進んでいて手遅れになることも少なくない。

 「例えば、抗血栓薬を服用中の高齢の方が路上で転倒。その後、20分間歩いて帰宅したものの、1時間後に嘔吐、1時間半後に意識低下したケースがあります。この方は救急搬送されて受傷後約3時間半後に治療を受けたものの命を救えなかった。残念な結果にならないためにも、できるだけ早い受診が大切です」と鈴木教授。その際、できれば脳外科や循環器内科がある医療機関がいい。

 また、服用している薬が何か、いざという時にほかの人にもわかるような工夫もしておくといい。そのためには、外出時は「お薬手帳」や服用している薬が記載された「お薬カード」を携帯する。

 本人だけでなく、家族の準備も大切だ。「転倒時にあわてないよう、(1)身近な人の飲んでいる薬の名前を控えておく、 (2)いざという時に受診する医療機関を調べておく、 (3)認知症がある場合には、服用薬がわかるメモやカードを本人が常に携帯するように工夫をすることを心がけてください」と鈴木教授は助言する。

 
 

勝手に服用をやめるのは厳禁

 2018年3月から、一般の方や医療関係者に向けて高齢者頭部外傷の危険性とその対応について啓発する“Think FAST”キャンペーンが始動した。「抗血栓薬を飲んでいる患者さんに知ってほしいこととして、抗血栓薬がどのような薬かを理解した上で飲み続けること、頭をぶつけた時には医療機関を受診すること、抗血栓薬の中には中和薬が存在する薬があるので自分が飲んでいる薬の名前を自分自身や家族が覚えておくことを啓発しています」(同前)。なお、このキャンペーンは、日本脳神経外科学会、日本救急医学会、日本脳神経外傷学会、日本脳卒中学会、日本循環器学会、日本脳卒中協会の5学会1団体が後援している。

 転倒時の出血のリスクについて知ると、抗血栓薬の服用が怖くなる人がいるかもしれない。しかし、心房細動による脳梗塞の予防などのため、抗血栓薬の服用は欠かせない。また、薬を勝手に休薬すると、脳梗塞の発症リスクが3倍以上になるという報告もある(※3)。自己判断で薬の服用をやめるのは厳禁だ。

 「いくら体を鍛えていても、年を重ねれば転倒を完全に防ぐのは難しい。だからこそ、その時に慌てず、適切な治療を受けられるように、本人だけでなく家族も日頃から対策をとってほしいですね」(同前)

(※1):厚生労働省平成29年人口動態統計
(※2):International Journal of Cardiology 2009;137:102-107
(※3) : Arch Neurol 2005;62:1217-1220

 

(イラスト:山下光恵)


日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
https://thinkfast.jp