文春オンライン

自衛隊はこうして“抑止力”から“実際に武器を使用する時代”へと移行した

NHK「平成史スクープドキュメント」が明かした“変貌”の意味

2019/06/03

 去年末、海上自衛隊の公式ツイッターのフォロワーがわずか一晩で7000人増えるという出来事が起きた。投稿の内容は以下のものだった。

「2018年も間もなく終わりですね。

 今年も一年間、海上自衛隊にご理解を頂きありがとうございました。

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 海上自衛隊は日夜、日本周辺海域の警戒監視を実施していますので、安心して新年をお迎えください」

2万件以上リツイートされた海上自衛隊のツイート

 多くのツイッターユーザーを惹きつけたのは、そこに添えられていた1枚の写真だった。この直前に、韓国軍によるレーダー照射を受けたとされるP1哨戒機。日韓の対立が深まる中でのこの投稿に、肯定的なコメント、というには過激ともいえるコメントが殺到した。

「これは強烈なメッセージですね」

「ガンガンやっちゃってください!」

「強気で嬉しい!」

 この投稿を行った海上自衛隊広報室の担当者は、こう強調した。

「いわゆる、バズったという状態になりましたが、決して政治的な意図はありません」

 なぜ、P1哨戒機の写真なのか。「年末の挨拶には飛行機の写真を、年始の挨拶には艦船の写真を添えよう、と以前から決めていたものです」と説明する。

 担当者はツイッターやフェイスブックといったSNSというツールを使って、国民とより直接つながることを重視し、そこから聞こえてくる声に耳を澄ませているということもあわせて強調した。

「私たちの投稿に対して、国民の皆様から頂く言葉というのは、基本的に、激励の言葉がほとんどです。現場の隊員にとってそれは、とても励みになっています」

韓国海軍の艦艇からレーダー照射を受けたとされるP1哨戒機の同型機(出典:海上自衛隊ホームページ)

自衛隊と国民の関係が大きく変化した平成の30年

 戦争放棄を掲げる憲法の下で発足した自衛隊。その歴史は、国民にいかに受けいれられるか、模索を続けた歴史だったとも言える。先の大戦の反省から旧軍と一線を画す形で発足した自衛隊は、農村での田植えの手伝いや、地域の祭への参加などを繰り返し、国民のひろい支持を得ようと努めてきた。そして、“本来業務”の防衛の面においては、長くソ連を念頭においた“訓練”を続けてきた。

 ところが、平成元年に冷戦が終結すると自衛隊を取り巻く状況も大きく変化していく。“ソ連の脅威”が消滅すると同時に、活発化した北朝鮮の軍事的挑発に直面。イラク戦争の直後には、事実上の“戦地”にまで活動の幅を広げることとなった。変化し続ける安全保障環境に脅威を感じる国民も増えている。

 自衛隊にとって平成とは、“抑止力として存在していれば良かった時代”から“実際に武器を使用する時代”へと移行していく30年となった。そして、それにともなって、自衛隊と国民の関係もまた大きく変化していくことになる。

 今回、私たちが「平成史スクープドキュメント」で取材をし、考察したことのひとつはこの「国民と自衛隊」の関係の変化とその意味だった。これまで脈々と取材を続けてきたNHK社会部の防衛担当チームとともに、平成の時代に自衛隊を率いた幹部たちに、とにかく話を聞いて回るという地道な取材を開始した。