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関西人は全員阪神ファンだと決めつけられるなか、オリックスファンはどう生きるか問題

文春野球コラム ペナントレース2019【対戦テーマ:関西対決】

2019/06/15

 研究発表で、大学の仕事で、はたまたマスコミや政府関係の仕事で、ほぼ毎週のように出張している。実際、今日も夜の会合のために新幹線で移動中である。ホテルはつまらない、家で寝たい。そして、たまには京セラドームでゆっくりとオリックスの勝ちゲームが見たい。

 もちろん、たまには出張中にも良いこともある。旧友との再会もあるし、美味いものも食える。でも良いことばかりとは限らない。例えば、ラジオ本番中に、突然、こんな風に聞かれた時だ。

「先生、野球お好きなんですね。やっぱり阪神ファンなんですか?」

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 おいおいまたかよ、勘弁してくれよ。何で関西の人間は、全員阪神ファンだという前提で話が進んでいるんだ。「すいません、まさか、オリックス・バッファローズのファンだとは想像もしませんでした」って、「まさか」も「小さいッ」も要らねえよ。

 とは言え、状況が地元関西では少しはましか、と言えばそうではない。何故なら、関西では多くの阪神ファン自身が、時に当然、周囲の人間も全て阪神ファンだという前提で動くからである。カラオケボックスでいきなり六甲颪を歌って、周囲に同調を迫る者、教えて欲しくもない阪神の試合経過を触れて回る者。うるさいこっちは今、9回裏、増井さんが登板していて、それどころじゃないんだよ。

18年の交流戦、オリックスは阪神に1勝1敗1分けだった

本来ホームである関西がアウエーという状態

 そして、だからこそそれは同じラジオ番組での出演でも事態はより過酷なものとなる。例えば、大阪には、朝から六甲颪を歌う事で知られる、熱狂的な阪神ファンのベテラン男性アナウンサーがディスクジョッキーを務めるラジオ番組がある。出演するとこんな感じだ(わかる人だけわかってください)。

アナウンサー「なるほどお話、よくわかりました……ところで先生はオリックスのファンなんですって? 実は私はオリックスも応援してるんですよ」

自分「それは嬉しいですね。今シーズンは頑張って欲しいですね」

アシスタント「出演ありがとうございました! 先生には記念に『六甲颪ボールペン』をお送りします!」

 ここまで来るともはやわかっていてわざとやっているとしか思えない。しかしどうして、全ての人間が『六甲颪ボールペン(昔からこの番組の名物です)』を送られたら喜ぶ前提なんだ。というより、関西のセ・リーグの他球団ファン、一体何してるんだ。悔しくないのか。

 結局、状況は簡単である。つまり、阪神タイガースのおかげで、オリックスファンにとって、関西外の地域がアウエーである以上に、本来ホームである関西がアウエーになっている、という事だ。尤も、幼い頃からオリックス或いは在阪パ・リーグ球団ファンをしてきた人間にとって、それはある意味当たり前の空気のような状態だ。幼少期から、「野球はどこを応援してるの?」というたわいもない質問に対して、正直に「オリックス」と答えた時の、クラスの友人たちの、明らかにリアクションに困ったような、時にとても残念なものを見ているかのような表情を見て、オリックスファンは育つ。そして、過酷な状況を耐え忍び、生き残ってきた者だけがオリックスファンとして成長する。周囲が阪神を応援しているから何となく阪神が好きになった、そんな柔な理由で、この関西でオリックスファンを勤め上げることなど不可能だ。

 それは例えて言えばこういうことだ。ある著名な論者によれば、横浜ファンは心に大仏を築きながら生きているという。しかし、オリックスファンはそんな目立つ事はしない。例えていうなら、オリックスファンはこの関西の地で、隠れキリシタンのように静かに自らの信仰を燃やしている。幼い頃にもらったイチローと仰木監督のサインを大事に握りしめて、奇跡が再び訪れること信じて祈っている。

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