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若手投手が育たない西武 榎田大樹の“キャッチボール”はチームを変えるか

文春野球コラム ペナントレース2019【対戦テーマ:榎田大樹】

2019/06/22

「それ、きつくないですか?」

 文春野球で阪神のチャリコ遠藤監督と「榎田大樹」をテーマに激突することを本人に告げると、真顔でそう言われた。

 榎田に関する渾身の原稿を今季、すでに他媒体に書いてしまったのは事実だ。ただし榎田に訊くことで、西武投手陣の問題を考えるきっかけになるのではと考えていたことがある。

西武に移籍してきた昨季、自身初の二桁勝利をマークした榎田大樹 ©文藝春秋

ライオンズの若手投手はなぜ育たないのか

 6月21日時点で、リーグ最低のチーム防御率4.49――。

 防御率4.24だった昨季以上に苦しんでいる。先発投手が打たれるたび、「5点までは失点ではない」とライオンズファンから前向きすぎる、あるいは自虐的なツイートが繰り返されるほどだ。

 バットを振り回す“山賊”が次々と台頭する一方、若手投手はなぜ育たないのか。ライオンズファンなら誰もが浮かべる疑問を解く上で、5月下旬、大きなヒントをくれたのが十亀剣だった。

「本当に思うのが、内海(哲也)さん、榎田(大樹)さんのキャッチボールを見てほしいんですよ、ファームの子には」

 今季の十亀は「軽く投げよう」とモデルチェンジし、西武先発陣で最も安定感を発揮している。反面、球速が140キロ台前半しか出ないことを「不本意」と感じ、キャッチボールで様々な取り組みをしている。そんな会話の流れから、西武投手陣の深刻な問題に行き着いた。

「キャッチボールでは肩ができればいい、(投球練習は)マウンドでやればいいんでしょっていう子が、たぶんまだ多いと思うんですよね。うちは今、ベテランが少ないので。涌井(秀章)さん、岸(孝之)さん、(菊池)雄星にしろ、キャッチボールを大切にしていました。そういうところを見て、『なんであの人はいいんだろうな?』と思ってほしいですよね」

 毎年秋になると、西武の主力投手は続々とチームを去った。帆足和幸、涌井、岸、牧田和久、野上亮磨、そして菊池……。単純に戦力ダウンすることはもちろん、「背中で見せる」先輩がいなくなった影響は計り知れない。

 2軍のコーチはキャッチボールの重要性を伝えているというが、若手投手にとって、ベテランの背中は何よりの教科書だ。FAによる大量流出の結果、プラスの連鎖が途切れ、西武には投手が育つ土壌がなくなっている。

榎田の“キャッチボール改革

 そんなチームで昨季「救世主」になったのが、開幕2週間前に加入した榎田だ。32歳の左腕が自身初の二桁勝利を飾った裏には、“キャッチボール改革”があった。

「こういう投げ方ができたらこういうボールが行くと考えてやるようになったのは、去年、鴻江(寿治)先生に体の使い方を教えてもらってからです。今までは強くボールを投げられたらとか、強くボールを弾けたらとか思っていたけど、それは自己満だったなとすごく感じました」

 鴻江先生とは身体動作の専門家で、千賀滉大(ソフトバンク)をはじめ、多くのプロ野球選手が門を叩いている。榎田は昨年オフから訪れ、飛躍のきっかけをつかんだ(詳しくは「Web Sportiva」の筆者原稿を参照)。

 野球を始めた誰もが「キャッチボールを大切にしなさい」と教えられるなか、なぜ重要なのか、本質を理解している人はどれほどいるだろうか。

 榎田にとって、キャッチボールは「投球動作の確認」という位置付けだ。傾斜のあるマウンドで投げるのは、平坦な場所で行うより難度が高い。だから日々のキャッチボールの中で試行錯誤しながら、「今日はこの球種が使えて、これは使えない」と週に1度の先発に向けて確認を行っている。

 榎田がキャッチボールの重要性を痛感したのは、東京ガスから2010年ドラフト1位で入団した阪神時代だった。

「阪神の上の人のキャッチボールは正直、ちょっとレベルが違いました。(藤川)球児さん、能見(篤史)さん、福原(忍)さん、安藤(優也)さん、渡辺亮さん。僕がルーキーで入ったときのピッチャー陣は、『僕はプロでやれるのかな』というくらいのキャッチボールでした」

 最も衝撃を受けたのは藤川だ。一緒に遠投をしていると、自分まで届かないと思ったボールが胸の下くらいから伸びてきて、グラブの芯で捕球しようとした球が土手や先端に当たる。

「それくらい回転数というか、推進力が強いと思います。衝撃でした」

 対して、怖いと感じたのは藤浪晋太郎だ。それほどの球威だった。現在なら、高橋遥人が「すさまじいボールを投げている」。