メソポタミア文明が誕生した巨大湿地帯に、豪傑たちが逃げ込んで暮らした“梁山泊”があった! 辺境作家・高野秀行氏は、ティグリス川とユーフラテス川の合流地点にあるこの湿地帯(アフワール)を次なる旅の目的地と定め、混沌としたイラクの地へと向かった。
現在、「オール讀物」で連載中の「イラク水滸伝」では書き切れなかった「もう一つの物語」を写真と動画を交えて伝えていきたい。
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最も古い「イラク水滸伝」の民である
イラクの湿地帯には2000年近く前からマンダ教という宗教の信者が暮らしていた。彼らの記録はひじょうに少なく、成立過程や歴史は謎に包まれているが、おそらくユダヤ教から分離した人々だろうと言われる。「死海文書」を書いた人々とも関係があるのではという説もある。
「自分たちが唯一の一神教」と標榜するがゆえにユダヤ教やキリスト教から激しい迫害を受け、パレスチナからトルコやイランの国境地帯を経由してAD3世紀にはイラクの湿地帯に逃げ込んだと考えられている。はっきりと血筋がつながっているという点では、最も古い「イラク水滸伝」の民である。
2003年のフセイン政権崩壊後、ムスリムの過激派や差別主義者から殺人・強盗・拉致などの迫害もしくは犯罪行為を繰り返し受けた結果、今では全人口(推定数万人)の9割以上が国外に移り住み、国内には数千人しか残っていない。私たちはバグダードにある彼らの施設と儀礼の場所を訪ねた。
ティグリス川沿いにあるマンダ教の施設を訪ね、アンマール師という若い司祭に話を聞く。司祭によれば、「マンダ教徒は古代メソポタミアで生まれた最初の人類である」という。