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連載むらむら読書

「死にて~」が「生~きよ」になった。人間の愛らしさと面白さにむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

2019/06/07
note

「死にて~~」と呟きたくなることがある。でも「ダメですよ」というよりしんどくなること言われたり、心優しい人たちに無駄に心配かけるし、「あいつ構って欲しいだけだよな」みたいな嘲笑も受けるから言えません。なので代わりに「バブーッ」と叫ぶことにしています。私の「死にてー」って「責任とか全部放棄して誰かに甘えたい」って気持ちなんですかね。実際死にたいわけでもないですし、赤ちゃんプレイにハマるおじさんの気持ちがわかってしまいました。

 しかし本当は「死にて~」って言えたら1番楽で、それに対して1番楽な返しが「だよね~」などの共感系。なので友人同士で「わかる、愛してるよ」とかやれるとすごく楽になって生きる気力もわくんですね。更にはその気持ちを掘り下げた本を読むのが癒しにつながります。

©犬山紙子

 そんな私が読んで癒されたのが末井昭『自殺』。以前ここでも感想を書いた神藏美子さんの『たまもの』で「スゥーと空気みたいになる末井さん 成田に向かうホーム」と書かれている写真に魅せられこの方の書く「自殺」が読みたいと思ったのです。だって死にて~って時はスゥーと空気のようになるから。「「自殺はダメ」とは思っていません。もちろん死ぬよりは生きていた方が良いに決まっています、でも競争社会の中で人を蹴落としてまで生きたくないというまじめで優しい人に「ダメ」とわかったようなことを言えない」というようなことがまず最初に書かれていました。最初にこう寄り添ってもらえると心に言葉がぐんぐん吸収されます。本には末井さんのお話、そして様々な方との自殺にまつわる対談が入っていました。それがどれもこれも人間臭くて魅力的、テーマがテーマなのにするする入ってくる。

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 読みながらゲラゲラ笑ったりもしました。特に若かりし末井さんがキャバレーにオブジェを作るとなり、テーマが万博ということで太陽の塔になぞらえて「チンポの塔」を作った話。それが何日かたってホステスさんが「この像に拝むと指名が取れるようになる」とその塔を拝み出したそうで。こんなに「人間」をあぶり出すエピソードはそうそうないですよ。

 最後に末井さんは「どうか死なないでくださいね、本当は生きづらさを感じている人こそ社会にとって必要な人なのです」ということを書かれています。最初から最後まで徹底的に人に寄り添い尽くし、人間って愛らしいなあ面白いなあって思わされる。私はふっと「生~きよ」って思い、『自殺』から人間讃歌を聴いたのです。

「死にて~」が「生~きよ」になった。人間の愛らしさと面白さにむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

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