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「本が売れない時代」の作家デビュー。どう売ればいいのか?――『#電書ハック』配信記念#2

電子書籍の現在と未来を語る、IT系作家と現役電子書店員座談会

『#電書ハック』(柳井政和 著)

『#電書ハック』とは? 
バリバリの文学少女・春日枝折は老舗出版社へ入社するも、配属先は電子書籍編集部!? 紙の本から戦力外通告を受けた老作家、ネット民には刺さる引きこもり作家、紙の本には目もくれないデジタル電子書店員たちとの出会いに戸惑う枝折。 やがて担当作家たちが出版界の内幕を暴露するテロ攻撃、〈電書ハック〉を計画していると知り……。

参加メンバー
◎柳井政和(『#電書ハック』著者。43歳)
◎加藤樹忠(株式会社ブックリスタReader Store企画部 部長。40歳)
◎佐藤由布子(同Reader Store 編成部 ストアディレクター。39歳)
◎松原嘉哉(株式会社トゥ・ディファクトUX企画部 副部長。37歳)
◎矢部潤子(同UX企画部 ディレクター。61歳)
◎司会・荒俣勝利(株式会社文藝春秋電子書籍編集部 副部長。52歳)

左から松原、矢部、柳井、佐藤、加藤の各氏。

 IT系作家と現役電子書店員座談会(#1より続く)

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「本が売れない時代」の作家デビュー

加藤 まず、どうしてこの作品を書こうと思われたのでしょうか? 作中に作家から出版社への憤りが描かれていましたが、本当にそのように感じられているのでしょうか? それが執筆の理由だったりしますか?

柳井 ゼロと言ったら嘘になりますね(笑)。いま本が売れない時代と言われているわけですが、本当は出版社が本を売っていないんじゃないかという疑問は、自分が出版社から本を出してからずっと持っていました。

私のデビュー作は松本清張賞の最終候補作止まりでしたので、売れる要素が薄いと自分でも思っていました。本が出てもプロモーションらしいことはほとんどないので、みずから手弁当で広報をやりましたが、自分の人脈がネット関係ばかりだったので、売れたのはほとんどが電子書籍だったと思います。

 2冊目の本が出たときはもっとひどくて、発売の1ヶ月前に担当の人が人事異動でいなくなり、次の担当が決まったのは発売の2ヶ月後。その新担当者との引き継ぎの時に、「発売1ヶ月の初動が悪かったので、次は状況が変わるまで紙の本は出せません」と言われて、「担当もいないのに売れるわけないよな。誰も売っていないんだし」というのが正直な感想でした(笑)。

 今回、取材していくと、電子書籍の部署から紙の編集部や営業部に対する愚痴も出てきたり、やはり出版社の中でも電子書籍に対する思いは一枚岩ではないなと。でも、ある程度の対立があればこそドラマも生まれてくるわけで、これは小説にできると思いました。

 

加藤 電子書籍への風当たりと言うと、私も経験があります。ソニーは2010年に本格的に電子書籍に参入しました。ちょうどその頃、キンドルが来るとか来ないとか、ガラパゴスが端末を出すとか出さないとか、そういう渦中にあって、私もいろいろ新聞の取材などを受けたのですが、なぜか電子書籍の難しいところしか記事にならない(笑)。いま振り返ると、電子書籍はすごく難しい始まり方をしてしまったなと思います。

 最近になってやっとネットサービスの一環として一般の人たちが普通に利用するもの、スマホの中にあるアイコンの一つという感覚になってきたのではないでしょうか。