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2019/06/17

 私が日産の有価証券報告書でSARについて確認したところ、日経新聞の記事では触れていない「もう一つの疑惑」に気づいた。

 2017年度の「役員報酬」の欄には、ゴーン氏とともに西川社長の報酬が個別開示され、「金銭報酬」が約5億円と記載されている。ところが、SARを示す「株価連動型インセンティブ受領権」という欄は、西川氏もゴーン氏と同じく、「-」。つまり非開示になっているのだ。

筆者・郷原信郎氏

 日経新聞が、ゴーン氏について「SARの金額を記載すべきなのにしていなかった」と指摘したのはこのことだろう。しかし、そうであれば、社長の西川氏も「-」と記載され、金額が開示されていないのはどういうことなのか。

 日経新聞が報じたとおり、ゴーン氏の逮捕容疑である有価証券報告書の役員報酬の虚偽記載がSARに関するものであれば、私は、西川氏のSARの非開示について指摘しようと考えていた。

 ところが、その後、虚偽記載とされたのはSARではなく、「退任後に支払うことが約束された報酬」についてだったという“衝撃の事実”が明らかになった(【ゴーン氏事件についての“衝撃の事実”~“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった】)。これによってSARのことは話題から遠ざかることになった。

 しかし、今回の「文藝春秋」の記事によってSARが再び俎上にのることになった。ケリー氏は、西川氏が「SARの行使を一週間ずらすことで大きな額の現金を手にした」という“さらに衝撃の事実”を明かしたのだ。

「文藝春秋」2019年7月号

 ケリー氏の証言によれば、西川氏はSARの金額を決める「行使日」が、2013年5月14日とあらかじめ決まっていたのに、それを約1週間ずらして22日にすることで、4700万円を上積みして、合計1億5000万円もの報酬を受け取ったという。

 ところが、2013年度の有価証券報告書を確認してみると、西川氏のSARによる収入は1500万円と記されている。この食い違いはどういうことだろうか。

 それにしても、西川氏の「金銭報酬」の約5億円だけでも、とてつもなく高額だ。逮捕以降、ゴーン氏の報酬が「年間約20億円」だったことが、「高額報酬」として問題にされたが、「プロの経営者」の国際的な市場水準と比較すると一般的なものに過ぎない。しかし、西川氏の場合、14万人の日産社員の中から社長となった「内部昇格者」だ。その報酬が5億円というのは、他の日本企業の内部昇格の社長と比較して破格に高額だ。

 SARの行使日をずらした2013年度でも、西川氏の「金銭報酬」は1億2,000万円にのぼる。西川氏はそれに飽き足らず、SARの行使日をずらすことでさらに報酬を上積みしたというのだ。