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民泊は増えていない――ホテル旅館業界が守った「既得権益」と、私たち個人が失った「選択肢」

ホテル旅館業界の足元には新たな脅威が忍び寄っている

2019/06/29
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 民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されてから、この6月でちょうど1年が経過した。新法の下で届出された民泊数は1万7301件(6月7日時点)。施行時点と比べて7.8倍増加したことで「民泊急増」とのコメントがメディアで踊ることになった。

実は「民泊」はそれほど増えていない

 都道府県別にみると1位が東京都で5879件、続いて大阪府の2789件、北海道2499件の順。上位3自治体で全体の約6割。民泊のねらいは外国人宿泊であることから訪日外国人観光客の多い自治体での届出が顕著であることがみてとれる。

 民泊を考えるときに新法ばかりに目が行きがちだが、別の法律で認められている民泊がある。特区民泊だ。特区民泊は、正式には「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」という恐ろしく長い名称がついた事業である。特区として認められている自治体は、東京都大田区をはじめ、大阪府の大阪市と八尾市、北九州市、新潟市、千葉市がある。このエリアであれば2泊3日以上との条件があるものの基本的には民泊を営むことが認められている。この特区民泊の件数は7864件。実はこのうち90%が大阪市での届出である。

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 さて特区民泊はともかくとして、この1年間で届け出数が1万7000件に及んだことが「急増」と言えるかというと、それほどでもなかったというのが業界筋の見方である。

 民泊は新法施行前、訪日外国人観光客の急増に伴う宿泊施設の不足から脚光を浴び始めたものだが、不審な外国人によるマナー違反や夜中の騒音問題など、どちらかといえばかなりネガティブな社会問題として取り上げられてきた。また顧客を取られることを心配したホテル旅館業界が、旅館業法などによる制約がない民泊に対してこぞって反対を唱えた。

 いっぽうで政府は2020年訪日外国人数4000万人、30年6000万人の目標を掲げる中で宿泊施設数の拡大、充実が喫緊の課題だった。そこで民泊を法的にも整備したうえでの活用を図ったのだ。不動産業界も空き家などの新たな活用策になるだけでなく、賃貸マンションやホテルに代わる新しい事業形態として民泊が「新たな選択肢」となることを、当初は期待していたのだ。