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クリムトが描いた「最愛の女性」に見るウィーンの世紀末抜群の”洒落っ気”

アートな土曜日

2019/06/29
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 欧州の中心として長らく栄華を誇ったハプスブルク帝国が、終焉を迎えんとしていた19世紀末のこと。国力の衰えとは反比例するように、帝都ウィーンでは絵画、建築、ファッション……。各ジャンルで新しい文化が花開いていた。それらの精華を大々的に紹介しようという展覧会が、国立新美術館での「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」。

グスタフ・クリムト《愛》(『アレゴリー:新連作』のための原画 No.46)1895年 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

成熟した都市がクリムトとシーレを生んだ

 美術のみならず工芸、音楽や精神医学にまで広がりを見せたウィーンの世紀末文化は、私たちが享受している20世紀以降の文化や生活の先取りだったともいえる。近代化への第一歩が、ここにあったわけだ。

 今展は、当時の各分野における最良の成果物を集め、順序立てて並べることで、近代化の過程をたどろうというもの。建築家オットー・ヴァーグナーによる機能性と装飾性を併せ持つ椅子や、当時の売れっ子ファッション・デザイナー、エミーリエ・フレーゲのドレスは、現代の眼から観てもその斬新さと洒落っ気に驚かされてしまう。創作から100年以上経ったいまも見劣りしないどころか、デザインの最良のお手本として機能しそうだ。

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オットー・ヴァーグナー《カール・ルエーガー市長の椅子》1904年 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz
マクシミリアン・クルツヴァイル《黄色いドレスの女性(画家の妻)》1899年 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz

そんな多様な作品が並ぶ会場で、ひときわ目を惹くのはやはりこのふたり、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレである。両者ともウィーン世紀末芸術を代表する画家で、師弟関係にあったと目されることも多いけれど、作風は大きく異なる。