昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

応援歌「お前」問題 ミュージシャンの視点で考えた歌詞の“二人称表現”について

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/04

 このコラムが掲載されるほんの数日前、我らがORIX Buffaloesと中日ドラゴンズとの間で大型トレードが発表された。トレード自体の話は散々メディアでも取り上げられた為、このコラムの読者の面々ならよくご存知の事だろう。松葉・武田の両選手には「新天地での活躍を」と願っているのだが、このコラムではその話はしないでおこうと思う。「君に栄光あれ」そう願うばかりである。「お前に栄光あれ」でも「あなたに栄光あれ」でもない。自分は「君に栄光あれ」と願っているだ。勘の良い読者の方ならもうお気付きだろうか……(笑)。

 時を同じくして、自分のTwitter上のTL(タイムライン)に渦中の中日ドラゴンズ、それも応援団関連のTweetが多数流れてきた。なんでも応援歌「サウスポー」の使用を自粛すると言う内容らしい。しかも、その理由を聞いて自分は愕然としてしまった。その理由が「歌詞に不適切な内容のフレーズがある」と球団から指摘されたと言うものだったからだ。これでも現在まで多数の楽曲を作詞してきた自分にしてみれば「???」。うぅ~む、実に「強烈な違和感」である。先日、東北楽天イーグルスの応援についても各SNS等さまざまなメディアを賑わせたばかりだ。よし、ならば今回はここら辺の問題をミュージシャンならではの視点で掘り下げてみたいと思う。

二人称の呼称表現はアイデンティティ

 最初に断っておくが自分は「サウスポー」の歌詞に一切の「不適切」は感じない。今回問題視されたのは歌詞の中の「お前」という表現らしく、なんでも「子供達が口にするのは教育上如何なものか」といった意見があがったと言うものだ。

 いやいやいや、そもそも「刺す」とか「併殺」とか「死球」等の表現を平気でルールブックに使用する競技だろうと。ルール以外だって「メッタ打ちにする」とか「引きずり下ろす」とか、もっと教育上よろしく無いワードが多数飛び交っているではないか。今更「お前」だろうが「貴様」だろうが二人称の呼称を教育の観点から議論したところで的外れも良い所ではないかと思うのだ。

 それが応援歌とはいえ「楽曲」内の「歌詞」の表現の話となれば“なし崩し”に的外れな感じが増していく。二人称の呼称表現はそもそもそれを発した人物のキャラクターが確立する言わば、発し手側のアイデンティティなのだから。

「対面した人物をどう呼称するか」で発し手側のキャラクターが形成される以上、「お前が好きだ」と「君が好きだ」と「アナタガスキダカラ」と「ユー好きだよ」では全く発し手に対する印象が変わってしまう。この「サウスポー」の話で言うならば発し手側、つまりスタンドのファンたちが二人称を「お前」と表現するキャラクターだと受け取られる事を望んだものの、それを受け手側が「お前」呼ばわりされる筋合いは無いよと受け取りを拒否した訳だ。しかしそれは「応援をされている方」のスタンスとしてはいかがなものだろうかと感じてしまう。実は表現云々よりも、こういったスタンスのあり方に真理が隠れているように思うのだ。