文春オンライン
文春野球コラム

「カープ緒方監督会見!?」騒動から考える“名将”の条件

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/07/20
note

 7月10日。広島のあるテレビ局の情報番組がTwitterに書いた一言が、カープファンの間に瞬く間に広がって騒然となった。その一言とは「カープ緒方監督会見!?」。折悪しくその時はカープ10連敗の真っただ中であり、「すわ辞任会見か」と大騒ぎになったのである。ほどなくしてそれはただ単に毎年恒例で行われるオールスター前の前半戦総括会見であることが判明し、ファンは胸をなで下ろした。ここから得られる教訓としては、文末に「!?」を付ける時には気を付けよう、というくらいの話である。

 ところがこの会見の真相が明らかになるまでの間、さまざまな憶測や意見が飛び交い、緒方孝市監督に対する批判をぶつける投稿も多く見られた。その中には「緒方監督は名将ではない」という主旨の意見もあった。

「名将」とは一体何なのだろうか

 名将か名将でないかで言うならば、緒方監督は名将だと思う。ここしばらくの負けが込んでいるとはいえ、過去4年間で3度のリーグ優勝を果たした監督が名将でなくて何なのだろうか。通算成績で見れば、368勝278敗、勝率.569、リーグ優勝3回(7月19日現在)。現役監督には驚異的な勝率.616を誇る工藤公康(ソフトバンク)や日本一3回の原辰徳(巨人)などもいるが、緒方監督の成績は歴代の名将と並んでも遜色はない筈である。しかし「名将ではない」という人たちが批判するのは、どうやら数字上のことではないようなのだ。そこでふと思う。「名将」とは一体何なのだろうか。

ADVERTISEMENT

 工藤健策『名将たちはなぜ失敗したか』(草思社・2003)には、凡庸な監督の特徴として「1.ローテーションを守らない。2.打線が固定しない。3.『愛のムチ』が好きだ。4.選手を育てない。5.好き嫌いが激しい。6.捕手を代える。7.負けると、ミーティングをする」が挙げられている。これはあくまで一つの見方であろうが、緒方監督は「凡庸な監督」には当てはまらないのではないだろうか。昨年までのリーグ3連覇は「タナキクマル」すなわち田中広輔・菊池涼介・丸佳浩の1〜3番固定、そして鈴木誠也の4番固定、中﨑翔太の9回固定という「固定」によりもたらされたものである。しかしその「固定」がうまく機能しないとなると、とたんにそれは「頑固」という評価に変わる。緒方監督は、たとえ不調に陥った選手であっても我慢して使い続けることが多いが、それも「頑固」という評価に拍車をかけているのかも知れない。

 その「融通のきかなさ」は、「短期決戦に弱い」という結果に繋げて見られてしまう。すなわち、カープが3連覇を果たしながら一度も日本一になれなかったことに不満を覚える人もいる。しかし過去を遡ってみれば、8度のリーグ優勝を果たしながら一度も日本一になれなかった西本幸雄監督(大毎・阪急・近鉄)などの例もあるし、それで西本監督が「名将」でなかったかと言われればそうではないだろう。「リーグ優勝はするが短期決戦に弱い」監督と「短期決戦には強いがリーグ戦では優勝できない」監督とどちらかを選べ、と言われたら多くの人は前者を選ぶのではないだろうか。

カープの歴代名将 ©オギリマサホ
文春野球学校開講!