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日本の介護が「刑務所ビジネス」で破壊される日――内田樹×堤未果

日本の資産が世界中のグローバル企業に売り渡される“ハゲタカ”問題を考える(1)介護ビジネス編

モデルは「時給20円」の刑務所ビジネス

 私が行った介護分野の投資セミナーでは、「絶対に利益が出る優良投資です、人件費は抑えてサービスもミニマム。回転率は最速で!」などという話がされていてゾッとしました。でもセミナーは大盛況でしたよ、何せ5年で回転、年間2回の高配当ですから。

 これね、民営化した刑務所と同じビジネスモデルなんです。『ルポ 貧困大国アメリカ2』の取材でびっくりしたのは、政治家が「刑務所作ります」と公約に掲げると当選しやすいんですね。刑務所があると壁の外は静かで警備体制が拡充される上に、各自治体も助かりますから。

 ただし、不動産に出資すると必ず店子がいるでしょう?

内田 囚人を切らしちゃいけないわけだ(笑)。

 その通りです。そこで政治家はどうすると思います? 厳罰化するんです。例えば「スリーストライク法」といって、3回警察に捕まると3回目がたとえ駐車の違反切符でもスリーストライクアウトで終身刑になるという恐ろしい法律があります。そうすると店子は永住してくれる。実際、稼働率が200パーセント超えてますという信じられない場所もあって、取材に行ったら4段ベッドにぎゅうぎゅう詰めでした。囚人ひとりあたりに州から補助金が出ますから、店子を詰め込めば詰め込むほど、不動産としても利回りが高くなる仕組みです。

 そして、店子がそんなにいっぱいいるのに遊ばせておくのはもったいない――。かつて自国のアメリカ人を使っていた企業は次に人件費削減で派遣社員を使うようになりました。でも派遣社員でもまだ高い、じゃあ移民を使おうとなり、いまはその先に来ていて、時給20円くらいで囚人を使います。

 一般国民なら労基法で守られるけど、囚人はその圏外。だから、たとえばパソコンのHDの最終段階の廃棄作業ってけっこう危ないし、危険な薬品の破棄なども、通常なら自治体の環境規制に引っかかるところが、刑務所内だと法の外なんです。だから経営者にとって刑務所は最高のビジネスツールですね。

 その同じビジネスモデルが、病院、介護施設に入って来ている。実際、3年ぐらい前に日本にも病院の不動産リートというのが商品として入ってきました。

内田 どういうふうに?

 いま日本の自治体病院ってほとんど赤字じゃないですか。その不動産に出資してもらいなさい、そうすれば黒字になります、と。当然、医師会はすごく反対しました。日本は医師法で営利目的の運営が禁止されているし、医療法人のトップは原則医師または歯科医師と医療法で決められています。そしたら直接出資はできないがホールディングという間接的な形で導入してしまった。株式会社運営の病院が入ってきやすくなる素地は着々と進んでいます。その次が介護施設です。介護と移民はセットになっている。グローバリズムのなかで、高齢者も囚人も病人もみんな商品になっているわけです。

 でもこうした世界的な流れはわずかここ数十年のことなんですよね。80年代にアメリカで新自由主義が出てきて、長い歴史のなかで見るとたった数十年しかないひとつのイデオロギーにこんなにも世界が食い荒らされてる。若い世代の人たちは一択しか選択肢がないように思い込まされているけど、右肩上がりに経済成長を続けなければダメだという作られた幻想から脱却し、日本のもつ有形無形の資産をいかに守るか、考えるべきときが来ているのではないでしょうか。

※(2)教育現場編・(3)医療編は順次公開予定です。

内田樹(うちだ・たつる)

1950年東京生れ。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、凱風館館長。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『ローカリズム宣言』『人口減少社会の未来学』など著書編著多数。『私家版・ユダヤ文化論』で第6回小林秀雄賞、『日本辺境論』で第3回新書大賞受賞、2011年に第3回伊丹十三賞を受賞。近著に『街場の天皇論』『そのうちなんとかなるだろう』ほか。

堤未果(つつみ・みか)

国際ジャーナリスト。東京生まれ。NY州立大学卒業。NY市立大学大学院国際関係論修士号取得。国連、米国野村證券などを経て現職。米国を中心とした政治、経済、医療、教育、農政、エネルギー、公共政策など幅広い調査報道で活躍中。多数の著書は海外でも翻訳されている。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清賞受賞。『ルポ 
貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞・中央公論新書大賞を共に受賞。近著に『日本が売られる』『支配の構造』(共著)等。

人口減少社会の未来学

 

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日本が売られる (幻冬舎新書)

堤 未果

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2018年10月4日 発売

 

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