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西武の投手が育たない問題 “補強”と“育成”を両立するために何をすべきか

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/08/03
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 7月31日――。

 トレードや新外国人選手の“移籍期限”のこの日は、12球団のファンにとってシーズン最後の“サプライズニュース”が届くかもしれない1日だ。

 首位ソフトバンクに2 連勝してゲーム差3に縮めた同日、西武ファンに吉報は届かなかった。プレーボール30分前、渡辺久信GMは昨季7勝を挙げたカスティーヨに戦力外通告したことを報道陣に伝えると、同時に今季途中の補強を行わないと発表した。

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「新戦力もいろいろ探してはいたんですけど、うち(の補強ポイント)はピッチャーなので。シーズン途中から来て、なかなか一軍ですぐにできそうな選手が見当たらなかったというところも実際はあります」

 今季開幕後にトレードも新外国人の獲得も行わなかった球団は、西武とヤクルトのみだった。

 補強には予算や相手、タイミングも関係してくるが、うまく行かなかった痛手は、今季の優勝争いに影響するばかりではない。補強の成否は、チームの育成面にも関わってくるのだ。

「本来は補強と育成の両翼を掲げるのがベストである。補強で主力クラスを獲得して責任を負わせることで『防波堤』とし、若い選手をのびのびとプレーさせることで育成は進むものである」

“お股本”として今年春に話題になった『セイバーメトリクスの落とし穴』で、日本ハムへの提言としてそう書かれている。

 補強と育成を両立させている好例が、ソフトバンクだ。FAや外国出身選手がチームの屋台骨となって勝ち星を重ねる裏で、若手が一定期間を経て明日の主力になっている。

 対して毎年主力をFAで流出させてきた西武は、その悪影響が特に投手陣に見てとれる。一例として、キャッチボールを疎かにしている若手が少なくないと以前「若手投手が育たない西武 榎田大樹の“キャッチボール”はチームを変えるか」で書いた。ウエイトトレーニングの途中、スマホをいじっている選手もいると聞く。

 そうした環境面に加え、起用法にも弊害が生まれている。まだエースへの階段を登っている途中の若手が、早すぎる段階から一軍の戦力として起用されることで、長い目で見れば成長に遅れが出たり、潜在能力を存分に開花させられなかったりするのだ。

若手が一軍で投げ続けることでぶつかる壁

「ファームだったら、試合をやりながら自分がやるべき課題に取り組んでいくこともできます。でも一軍の試合で(週に1回先発する中で)調整すると、まず疲労を取らないといけない。その中で課題を練習していくのは、なかなか難しいです」

 先発投手の視点でそう話すのは、十亀剣だ。勝敗より育成に重きが置かれる二軍では必ずしも週に1度先発する必要はなく、登板間で自分の課題に取り組むことができる。対して一軍で週に1度先発する場合、疲労を抜くなど調整優先となり、課題を解決する時間を作りにくい。

 昨年、そうした壁にぶつかったのが高卒2年目の今井達也だった。2016年夏の甲子園優勝投手は昨年6月にプロ入り初先発で初勝利を飾ると、クライマックスシリーズまで先発ローテーションを任された。優れた投球センスでゲームメイクした反面、走者を出してクイックで投げると体の開きが早くなって横振りになり、ボールがシュート回転するというクセが目についた。

 入団3年目の今季、ストレートやチェンジアップなど1球1球の質はリーグトップレベルにありながら、防御率4.15(今季の成績は7月31日時点)と必ずしも結果に結びついていない要因もここにある。オフを経ても課題をクリアできなかった理由について、4月6日の日本ハム戦後に今井はこう話した。

「横振りになるのは、実戦の中で投げていて自分でもわかっています。ずっとそういう形でやってきてしまっているので、なかなか直すのは難しい」

 悪いクセがあるまま投げ続けていると、体に染み付いてしまうのだ。

高卒3年目の今井達也 ©時事通信社

 現在そうした意味で心配なのが、高卒2年目の平良海馬である。最速154kmの右腕投手は踏み出す左足が開きがちになるというクセがある中、7月8日から中継ぎ待機しているため、課題に取り組む時間はないという。

「試合でやっていくしかないですね。ぶっつけ本番で」

 平良がそう語った一方、小野和義コーチはこう話した。

「一軍の経験を持って、自分にいま何が足りないのか。明確に課題を見つけて克服していけば、抑える確率が高くなってくる。成績うんぬんは、まだ正直求めていない。思い切り自分の投球をして、課題に対しての練習を積んで、来年以降、どういうふうに一軍に定着できるかを考えていけばいい」

 プロ野球の一軍がどれほどのレベルか、自分の肌で感じることは重要だろう。

 ただしフォームにおける課題を修正するのは、「対自分」の話である。今井が昨季と同じ問題を今季も抱えていることを考えても、フォームに課題のある平良を一軍で投げさせ続けるのは得策と思えない。将来大きく羽ばたかせることを考えると、今は二軍でじっくり取り組ませた方がいいのではないだろうか。

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