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福岡へ行って考えた、パ・リーグファンはセ・リーグファンがちょっと羨ましい理由

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/08/24
note

「文春野球コラム」の連載も既に後半。我らがオリックス・バファローズがシーズン終盤に入って、猛烈な追い上げを見せているのに対し、このコラムはこのところ負けが込んでいる。もちろん、その原因は簡単だ。他のコラムニストの皆さんが、球場その他で地道に取材を重ねて熱いコラムを書いている(いや、そうでない人もいるが)のに対し、筆者は入学式だとか、文在寅政権とか、ヒット数が稼げそうな適当なネタを動員して、その場を誤魔化そうとしているからである。例えて言えば、目の前の成績ばかりを追い求めて、地道に高卒から若手を育成することを選択せず、即戦力、しかも大学を経てから社会人球団に入った選手ばかりをドラフトで指名して、次第に戦力がジリ貧になっていった、少し前までのどこかのチームと同じである。

 これではいけない、今回こそ真面目に現地取材をしてコラムを書こう。でも、ただ京セラドームに行くだけでは、いつものようにただの応援になってしまうから、ここはやはり、あえて高い交通費を払ってでも、アウェーでの観戦を試みるべきだろう。せっかくのアウェーでの観戦なら、空席だらけの球場よりは、球場中ぎっしり相手チームのファンで埋まったアウェーっぽいアウェーの球場がいい。ついでに言えば、未だ残暑が続く中、「ちゃんと冷房が効くドーム球場」の方がいいに決まっている。だとすれば、候補は一つしかない。福岡だ。

平和台球場跡を見て思い出したこと

 ということで、行ってきましたヤフオクドーム2連戦。第1戦は当然のようにオリックスが14−4で首位ソフトバンクに圧勝。レフトスタンドのもの凄く狭い一角に押し込められて必死で声を張り上げて応援している皆さん、まるで島原の乱で原城跡に立てこもるキリシタンみたいです、格好いい、尊敬します。僕の中ではあの試合のMVPは皆さんです。

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 で、試合が終わって一人密かに、焼鳥屋で祝杯をあげて、ホテルへと足を運ぶ。貧乏国立大学教員なので、豪華ホテルに泊まれる訳もなく、宿泊先は小さなビジネスホテル。えと名前は何だっけ…と見ると、宿泊するホテルの名前に「旧球場前別館」という注釈がついている。球場前? そうかそういえば、ちょうどこの辺りに平和台球場があったんだよな。どうせだったら、ちょっと足を運んでその跡地でも見てみることにしようか。

かつて西鉄ライオンズなどの本拠地だった平和台球場

 実はこの平和台球場跡、その後、大和朝廷が中国や朝鮮半島からの外交使節を迎えた「鴻臚館」の遺跡が発掘され、今では遺跡公園みたいになっているのだけど、今回はそういう「日本と韓国の交流の歴史」的な仕事がらみの話はお休みにしたい(もちろんGSOMIA関係の話は別の場所で)。跡地は遺跡公園のふりをして実は、甞て球場があった場所が、綺麗にそのままの形で芝生の生えた空間になって残っているので、どの辺りにスタンドがあり、またマウンドやホームプレートがあったか、今でも大体わかるようになっている。で、歩きながら思う。そうか、ここに江本が立って投げて、あのあたりに広瀬が守って、快足を飛ばしてファインプレーを連発したんだ。そう、あの頃、俺、南海ホークスファンだったんだよ。相手チームの名前は「太平洋クラブライオンズ」だった。あれからもう随分経ったんだな。50年近く前の話だもんな。

 そんなことを考えながら平和台球場の跡地を歩いていてふと気づいたことがある。そうか、自分が子供の頃に最初に目にしたのと「同じ」パ・リーグの球団は、今では一つもなくなっているんだ。あの頃、関西には南海と阪急と近鉄と三つも球団があって、オーナー会社が全て鉄道会社だったこともあって、ファンは「xx電車ではよ帰れ」という定番のフレーズでお互いにエールを送り合っていた。福岡にあったのはライオンズだったけど、あの頃にはもう弱い球団になっていて、とても個性的なユニフォームを着て相手に死球ばかりぶつけるユニークな野球をしていた。ロッテは仙台と東京の間を忙しく行き来して、「ジプシー球団」なんて陰口を叩かれていた。日本ハムの本拠地は後楽園で、どの球場ももうこれは見事なまでにガラガラだった。

 でもそこから球団が一つ一つなくなったり、違う場所に移って行ったりした。最初になくなったのが、この福岡にあったライオンズだった。1978年、所沢に移って西武ライオンズになった訳だけど、愛する球団を失った福岡の人のショックは大きかった。「甦れ!俺の西鉄ライオンズ」という名前の「レコード」が出されて福岡では大ヒット曲になったりもした事もあった。この歌を西鉄の大エースだった稲尾が自らうたっているのを聞いた事があるけど「返せ、返せ、ライオンズを返せ」というフレーズは他球団のファンでもちょっと泣けたなぁ。

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