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川崎殺傷犯・岩崎隆一、元農水次官長男、“低能先生”……彼らの人生が交差する場所――文藝春秋特選記事

ロスジェネ世代のノンフィクション作家が「同世代の事件」を追う

2019/08/17

「文藝春秋」8月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年7月15日)

 他人事とは思えなかった。この初夏に起きた2つの事件のことだ。

 ひとつは51歳の岩崎隆一が登戸駅近くでカリタス小学校の児童と保護者を殺し、18人を刺傷した事件であり、もうひとつはその4日後、「自分が殺される」と危機感を強めた元農林水産次官の熊沢英昭が44歳の長男、英一郎を滅多刺しにした事件だ。岩崎は私の7つ上、英一郎と私は同い年だ。彼らがどうして身勝手な暴力に走るに至ったのかが、気になっていた。

社会問題化しはじめた「就職氷河期世代」のつまずき

 岩崎と英一郎に共通するのは、彼らが就職氷河期世代にあたるという点だ。

 政府の経済財政諮問会議に提出された資料(4月10日付)によれば、1993年から2004年にかけて、毎年8万人から12万人が就職できないまま大学や高校を卒業した。新卒時にレールに乗らないことを「夢を追い続ける選択」と強がっていられたのは数年だけで、多くの人がその後も無業・無職だったり、有期の採用と失業を繰り返したりした。

岩崎隆一が20人を殺傷した川崎市登戸の現場 ©松本輝一/文藝春秋

 かつて新卒で得た地方新聞記者の職を3年半で辞めた私も、無職だった時期がある。東京の親元に戻っての暮らしが1年ほど続く間にノートに書きつけた将来像は色あせて見え、旧友に会う気は萎えていった。先行きについて父や母に話すことはできなかった。

 単線的に成り立つ日本の労働市場は新卒採用に広く道を開く一方で、一度機会を逃した者には冷たい。言い古された指摘だが、失われた20年を経てもなお、終身雇用・年功序列の労働慣行が抜本的に変革されることはなかった。いったん正社員としてその内側に入り込んだ者は既得権益を持ち、危機意識など薄れてしまうからだ。

 だが、ここにきて就職氷河期世代のつまずきが、個人の人生設計だけの問題でなく、「国のかたち」に決定的な影響を及ぼしかねない、と指摘されるようになってきた。

 就職氷河期世代の真ん中あたりに位置する団塊ジュニア(1971年~74年生まれ)は1年ごとの出生数が約200万人に上り、この「数」の面で、団塊の世代に匹敵する。そして20年後の2040年には、この人口の層が65歳を迎え年金を受給する側に回り、高齢者人口はピークに達する。

 このうち長らく非正規で働いた現代の中年の老後は、「低資産・低年金」だ。比較的手厚い年金がある90歳の父母と低年金の65歳の子が、身を寄せ合って暮らすしかない。