文春オンライン

【東京がんストーリー】「がん一歩手前」の診断受けた2人の女性 結婚と子作りと仕事の狭間で

2019/09/03
note

 悲劇のヒロインみたいにクヨクヨしたいわけじゃない。でも、過剰に前向きもなんかヘン。「がん」を取り巻く微妙な空気になじめない……。2019年2月、自身のホームページで「大腸がん」をカミングアウトした35歳の女性ライター・小泉なつみさんが、日常に現れた「がん」とどう付き合っているのか、「がん一歩手前」の診断を受けた20代と30代の女性に話を聞きました。

ライターの小泉なつみさん

「がん」になった「35歳」の「子持ち」「ライター」

 はじめまして。ライターの小泉なつみと申します。

ADVERTISEMENT

 なぜ無名のライターがここに登場しているかといえば、それは私が「がん」になった「35歳」の「子持ち」「ライター」だからです。

 昨年11月、息子の1歳の誕生日をお祝いした直後に大腸がん(ステージ3)が判明。すぐに手術をして“がん”を取り除き、受精卵の凍結をしました。

「どうして“がん”で受精卵?」と思われるかもしれませんが、抗がん剤を使うと妊娠できない可能性があるため、それを望む場合、治療前に使用可能な“卵”を外に逃がす必要があるのです。それゆえの、受精卵保存でした。

子作りという大問題から入院中のベッドを窓際にするかどうかまで、大小さまざまな決断を迫られた2カ月でした。

 こんな経験を買われて“がん連載”をすることになったものの、なに書こうかしらん……と最初にイメージしたのが、「がんになって劇的に生活を変えた」エピソードでした。

 世の中には、がんをきっかけに啓蒙活動をしたり、ブログで治療の様子を発信している方も見かけます。

 じゃあ自分はどうよ?

 手術で大腸が数十センチ短くなったものの、抗がん剤が終わった今はビールも飲むし、普段の食事も添加物どんとこい。ランニングを始める予定もなく、ハーブを植えるのも面倒だし、旅行はマイルがもう少し溜まってからでいいか……と考えると、とりたててなにか変わったことはなかったのであります(ライターなので病をネタに記事は書いてますが)。

「実は自分も……」 周りの人からの“がん告白”

 一方で、自分が“がん”をカミングアウトしたことで、「実は自分も……」と、周りの人たちから“がん告白”を受けました。

 世界一の人口密度を誇る東京に35年暮らし、23区のいろんな場所で恋バナは聞いてきたけれど、こんなに多くの“がんバナ”を耳にしたのは初めてでした。

 ドラマ『東京ラブストーリー』のキャッチコピーは、「東京では誰もがラブストーリーの主人公になる」でしたが、私が読んだ“がん”のフリーペーパーには、「がん治療の主人公はあなた」と書いてありました。

 だったら私は、「東京がんストーリー」を聞きたい。日本人の2人に1人が生涯のうちに“がん”になるなら、これからは恋バナじゃなく“がんバナ”だ。

 

 しかも病気を扱った創作物は世界の中心で愛をさけんだりするようなお涙ちょうだい系か、どこまでも真面目なものばかりで、ちょうどもやもやしていたところ。実際には涙もあれば笑いもあり、大病したからといって真面目になるわけでもない。

 そんな日常の“がん”を伝えつつ、それにまつわるもやっとした空気感も、考えられたら考えていこうかと思います。