7月17日に開かれた第161回芥川賞選考会。受賞作は今村夏子氏の『むらさきのスカートの女』に決まった。
同時に、今回をもって高樹のぶ子氏(73)が選考委員を退任することとなった。高樹氏は1984年に『光抱く友よ』で芥川賞を受賞。2001年に同賞の選考委員に就任し、18年にわたって多くの作品の選考に携わってきた。
選考会の翌日、高樹氏に芥川賞と共に歩んだ35年間を振り返ってもらった。
「高樹さんは化けるかもしれない」
芥川賞を受賞した1984年の選考会当日、高樹氏は自宅で家族とテレビ中継を見守っていたという。
「受賞作発表後、しばらくして会場から出ていらした吉行淳之介さんに、記者やカメラがわっと集まっていった。その囲み取材で吉行さんが私の作品に触れ、こうおっしゃってくださったのです。
『高樹さんは化けるかもしれない』
私はその言葉にずっと励まされ、一方では支配されながら、作家生活を続けてきた気がします。選考委員の方々の言葉というのは、ご当人はなんとなく発言されたものなのかもしれませんが、作家にとってはある種の“予言”であり、非常に重たいものなのです」
高樹氏は、芥川賞選考委員の退任とともに、吉行氏の言葉から解放されたのだと言う。その表情は非常に晴れ晴れとしていた。