文春オンライン

「ありふれた」事件である「あおり運転殴打」はなぜ拡散されるのか

SNS時代の「コレジャナイ」感は想像の範疇になかった

2019/08/21

 ここのところ、SNSからメディアまで、あおり運転殴打とその容疑者逮捕の話題で持ちきりだ。これを書いている今も、テレビの情報番組では容疑者の「素顔」とやらを追っているし、ヤフー・ニュースのアクセスランキング上位5位中1、2、4位はその関連ニュースだ(※8月9日14時現在)。

恐ろしく「ありふれた」事件でもある

 ただ、この事件が話題になり始めた頃から、どうにも違和感が拭えないままでいる。確かに、2017年6月の東名高速道路におけるあおり運転がもたらした追突事故は痛ましく、あおり運転への国民の問題意識を大いに高めたのは疑いない。だが、今回の事件で指名手配となった容疑は傷害に過ぎない。大々的な指名手配や、国家公安委員長が言及するような事件とも思えない。

 誤解を与えかねないので先に書いてしまうが、筆者は本件は逮捕に値すると思っているし、容疑者が逮捕されたことに安堵している。だが、事件そのものは、死亡事故につながる可能性はあったものの、恐ろしく「ありふれた」ものであるのも確かだ。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

見過ごされてきたあおり運転との差

 この事件と同時期には、埼玉県で50代男性が同居する80代の母親を殺害したとされる事件(8月14日逮捕)や、岡山県のホテルで女性が暴力団構成員に殺害される事件(8月13日逮捕)といった凶悪事件が起きている。だが、いずれもの事件も知らない人は大勢いるだろう。

 同じあおり運転の事件ですらそうだ。この手の事件は珍しいものではない。例えば、2017年9月にハイビームに立腹した男が、5キロに渡りあおり運転を繰り返し、信号で停止した車の窓ガラスを叩き割り、運転手を殴り鼻を骨折させた事件が起きているが、ご存知の方はどれほどいるだろうか? 今回の事件よりも激しいが、扱いは遥かに小さかった。東名の事件よりも後に発生したにも関わらず――。

 今回の事件と、それ以前の事件を分けたものはなんだろうか? 筆者はやはり映像の力によるところが大きいと考えている。今回の「あおり運転殴打事件」では、被害者が映像をテレビ朝日に投稿したことや、SNS上での拡散もあり、様々な機会で目にすることができた。運転という多くの人にとっての日常の中で、突然理不尽な暴力に見舞われる映像は、人々の心を揺り動かしたことは想像に難くない。

©iStock.com