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女子バレー全日本監督・中田久美は“東洋の魔女”を超える伝説のチームを作れるか?

寝食も忘れるほど選手に全身全霊を注いできた2年半――

2019/08/29
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 スポーツ界には「名選手、名監督にあらず」という格言がある。能力のある選手は自分の感性やセンスでプレーするため、いざ指導者になった時に、相手の立場に立って教えられないことから、そんな格言が生まれた。だが、女子バレーボール全日本監督・中田久美には、そんな通説は当てはまらないように思う。

中田久美氏 ©山元茂樹/文藝春秋

 15歳で全日本に選ばれた中田は「天才少女」と謳われ、3度の五輪に出場。現役時代、女子バレーの実力と人気を牽引した中田が、全日本監督に就任したのは2017年4月。監督就任挨拶で、高らかに宣言した。

「伝説のチームを作りたい。目標はもちろん、東京五輪での金メダル」

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 だがスタート1年目のグラチャンでは5位、2年目を迎えた昨年の世界選手権では6位と、メダルに遠く及ばなかった。それでも私は、彼女の指導者としての資質はやはり卓越していると考えている。

愚痴は人の成長を妨げる

 バレーはコートの6人が1ミリの隙も無く考えを同じにし、判断を一致させないと空間を支配できない。そのため、チームを熟成させるには8年間の歳月を要するといわれてきた。事実、金メダルを獲得した1964年の東洋の魔女、1976年のモントリオール組は、故大松博文、故山田重雄が8年かけて作り上げたチームだった。ちなみに男子金のミュンヘン組も、故松平康隆が8年かけて作り上げたチームである。

五輪に向かう“火の鳥NIPPON”のメンバーとともに ©共同通信社

 一方の中田は、選手の心の襞(ひだ)に深く分け入ることによって、チームの熟成期間を短縮しようとした。選手同士が互いに本音を探り合ったり、気を使ったりする時間を徹底して省いた。選手がグループを作りそうなものなら、すぐにメスを入れ引き離す。

「人はつるむと必ず愚痴を口にする。愚痴は人の成長を妨げてしまうんです。選手には、コート以外で一滴も無駄なエネルギーを使わせたくない」