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鍵アカの「誰かが読むかもしれない」エロさにむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

2019/09/07
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 ツイッターの鍵アカウントにメモ書きをしながら本を読むようになりました。なんて美しい表現なんだろうと感動した一節だったり、読んでいるうちに湧き出た自分の感情や意見だったり、勉強になったことだったり。

 本を読んだときにふっと降りてくる得も言われぬ気持ちをすかさずキャッチして残しておきたい。あ、そうか。これまでよくわかってなかったけど、あの気持ちって「ときめき」ってやつなのか「トゥンク」ってするし。日記はときめきを閉じ込めて後から何度も反芻できるってことなのか。

 ……でそれを限られた友人と共有する。私は自分が読んだ本について誰かと共有したいし聞いてもらいたい。子どもの頃「お母さん、あのね」って話を聞いてもらうみたいに好きな人たちに聞いてもらいたい。それでやっと自分の血肉になる気がする。だからこんな連載やっているんだけども。

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 でもLINE だと相手に「返事しなきゃ」って思わせちゃうからツイッターの鍵垢。好きな時間に書きたいだけ自由に書けるのもとてもいい。秘密の日記ってどこか誰かに見られたいって願望香るのはなぜだろう。だからメモじゃだめで「誰かが読むかもしれない」くらいのエロさが欲しい。

©犬山紙子

 と書いていたら「谷崎の『鍵』犬山好きだと思うよ。夫婦がお互い読まれることを前提で、日記に倒錯的な性生活を赤裸々に書いていくの、普段はお互い読んでませんよって顔で生活をするんだけどね……」と目を輝かせて語る友人(木村綾子)を思い出した。

 私の生活に『鍵』のような変態性生活は残念ながら(?)ないのだけれど、なるほど「秘密の日記」を介して夫との関係は更に彩られるような気がしてきた。私の鍵垢にはときめきを書き留めてあるし。(殆どは無味乾燥の勉強メモなんだけど……)

 早速夫に鍵アカウントを教える。この時点で前提が崩れるけどSNSってなぜか「相手の投稿を全部読んでいるのは重いし気持ち悪い」って感覚がある。だから私の鍵アカウントをフォローしても夫は「読んでる感」は出さずに生活する筈。でも本当は熱心に読んでくれていたとしたらそれはそれで物凄く良い。

 ねえ夫、古井由吉さんが『ゆらぐ玉の緒』で「春先は病みあがりに似る」って書いてたよ。「春の気に感じて内からも押しあげる精に、心身がまだ追いつかぬせいであったとしたら、やはり病みあがりのたぐいである」って。春先ちょっと私たち調子悪かったけどきっとそうだったんじゃないかな。そんなことを鍵垢から夫に伝えてみる。

鍵アカの「誰かが読むかもしれない」エロさにむらむら――犬山紙子「むらむら読書」

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