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田中広輔も育てた……カープ内野陣を支える玉木朋孝コーチの“ノック哲学”

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/09/15
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 ボールの質、正確さ、強弱、どれをとっても一級品である。試合前、確実な狙いを持った打球が生き物のように襲い掛かる。試合前のシートノックなどは、そのテンポの良さを含め、必見の価値がある。

 カープ二軍守備・走塁コーチ、玉木朋孝のノックである。もちろん、努力の賜物だ。コーチ就任当初は84センチのノックバットを用いていたが、より強い打球を打つために今や94センチのものを自在に使いこなすようになった。居残りでノックの練習をした時期もあったし、シーズンオフには近隣の公園に出向いてノック練習を行うこともある。「50歳代になっても、強いノックを打てるように」とウエイトトレーニングも欠かさないため、44歳になってもお腹が出るようなことはない。

玉木コーチがノックの技術を磨く理由

 高校を卒業して入団したばかりの羽月隆太郎の言葉が迫力を物語る。「最初にノックを受けさせてもらったとき、これがプロなのかと衝撃を受けました。今まで見たことにない打球でした。打球が弱い時でも、サッと来るのでなく、独特のスピンでこっちに向かってきました。捕る瞬間に手元で動くような打球もありました。なので、無駄な動きを少しでも入れると、グラブに収めることができません」。

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 大きな狙いは2つある。まずは、プロ野球の外国人選手のような強い打球を体感させることで、打球を怖がらない選手にすることである。「怖がると上手にはなりません。ボールから逃げると上達しませんから」。

 1990年代、カープの内野手としてプレーした経験が原点にある。「僕たちもボールを怖がらないように徹底されました」。だから、玉木は歯が折れても、裂傷を負おうとも、一歩も引かなかった。

 ある二軍戦を覚えている。ノーアウト満塁の場面で、ショートの玉木に強烈な打球が飛んできた。逃げずに捕りにいったが、イレギュラーバウンドした打球が、彼の頭部に直撃した。彼は、体に当てたボールが前に転がるのを確認すると、グランドに倒れた。そのボールはサードが処理して、大量失点は免れた。

 ベンチで二軍監督の安仁屋宗八から掛けられた言葉が忘れられない。「お前のおかげで、1点で済んだわ」。全てが報われるとともに、自身の役割を再確認できた言葉だった。

 もうひとつは、足を使ったフットワークを磨くためである。玉木の説明は明快である。「何のためにフットワークを使うのか。送球のためでもあります。少しでもいいバウンドに入るフットワークが必要です。中途半端なバウンドに入ると、エラーもすれば悪送球もしてしまいます。ゴロを受けることで下半身もできてきますから、とても大事なことだと思います」。

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