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「もう少し、お安くできませんかしら」セール品に更なる値引きを要求されたスーパーの従業員の憂鬱

“カスハラの現場” 大手スーパーの衣料品売り場で働く加藤さん(仮名・56歳男性)

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 パワハラ、セクハラと並び、今や世界的な現象になっているカスタマー・ハラスメント(従業員のささいなミスでキレる、暴言を吐く、終わらないクレーム、威嚇・脅迫顧客からの悪質なクレームなどの迷惑行為)。NHKの人気報道情報番組「クローズアップ現代+」の放映後、大反響を呼んだその実例と分析、処方箋をまとめた『カスハラ モンスター化する「お客様」たち』が発売された。その中から実際にあった酷い“カスハラ”の2つの事例。

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ニコニコしながら「もう少し、お安くできませんかしら」

「ほとんどの商品が値下げになっている、冬物のバーゲン期間中でした。加えてその日は、販売促進のために『レジにて半額』というタイムセールも行なっていました。

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 レジのひとつを担当していたパートの女性が困った様子で、私のところへやって来ました。お客さまから、『もっと値下げ出来ないか』と持ちかけられているという相談でした」

 その商品は、通常価格の4000円をバーゲンだから1000円に値下げし、半額のタイムセールで売値は500円になっているカーディガンだった。商売としては、この時点で原価割れだ。

 加藤さんがレジに向かうと、60歳を少し過ぎたくらいの女性が待っていて、ニコニコしながら控え目な声で言う。

写真はイメージです。 ©iStock.com

「もう少し、お安くできませんかしら」

  加藤さんは、バーゲン期間の上にタイムセールの割引で、原価割れもしているため、これ以上の値下げは出来ない旨を説明した。しかし相手は、引き下がらなかった。

「ほんの少しでいいんですよ」

 500円を300円にできないか、というのだ。