昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載歴史・時代小説の歩き方

盆・盆・墓・盆・墓・盆・盆(後編)――京極夏彦怪談の慈愛

2015/08/15

genre : エンタメ, 読書

 前編では宮部みゆきの怪談小説を紹介して、亡くなった懐かしい人に会えるのなら、幽霊は怖くないんじゃ? という話をした。そこで今回は江戸時代から伝わる「怖い幽霊」が出てくる怪談を見てみようと、「四谷怪談」「真景累ヶ淵」「播州皿屋敷」をあらためて読んでみたらばさ、別の疑問が浮かんできたのよ。なんで幽霊は、女ばっかりなんだろう?

 その疑問にずばり答えてくれたのが野口卓『ご隠居さん』(文春文庫)所収の「皿屋敷の真実」だ。鏡磨きの梟助爺さんが訪問先であれこれ話すという、ワンテーマ・エッセイのような時代小説の連作短編集。「皿屋敷の真実」では、客先の娘に「幽霊はほとんどが女の人だとおっしゃったけど、なぜでしょうね」と問われる場面がある。

「それは、恨みが強いからです」
「男の人だって恨むことはあるでしょう」
「男は自分で恨みを晴らすことができますが、弱い女の人にはそれができません」

 女って弱いかぁ? などと思ってはいけない。江戸時代の話だということをお忘れなく。女が弱かったのは腕力や気質じゃない。立場です。理不尽な目にあっても、それを今生で晴らせるようなシステムが社会になかった。家宝の皿を失くしたとしてお菊さんを殺した町坪弾四郎も、お岩さんを騙して離縁した民谷伊右衛門も、法や社会は罰しない。そんな時代。

 つまり怪談の幽霊が怖いのは、恨まれるようなことをした人の前に出てくるからなのね。人を幽霊にまでさせてしまった、自分の醜い心根に対する恐怖なのだ。

 それにしても、ここで気になるのは彼女たちの――特にお岩さんの描かれ方だ。四谷怪談、知ってます? 四谷怪談は知らなくても、お岩さんの絵や映像は知ってるって人は多いかも。でも、それもむごい話だと思う。背景を知らずに、あの見た目だけが知られてるって、むごいよ。

ご隠居さん (文春文庫)

野口 卓(著)

文藝春秋
2015年4月10日 発売

購入する

【次ページ】「四谷怪談」のお岩さんとは