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許永中72歳が自伝出版前に明かしていた「日韓“2つの母国”への想い」――文藝春秋特選記事

時代を動かした「金融フィクサー」は今、何を思うのか

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 8月28日、戦後最大の経済事件と呼ばれる「イトマン事件」で知られる許永中氏(72)が自伝『海峡に立つ 泥と血の我が半生』を上梓した。許永中氏は現在、韓国のソウル在住。日韓関係が史上最悪といわれるこのタイミングでの出版となった。

 

 実は、遡ること1年半前、許永中氏は自伝出版の計画を「文藝春秋」のインタビューで明かしていた。そして、日本と韓国という“2つの祖国”への想い、逮捕されるきっかけとなったあの事件の真相を語っていた。その際の特選記事を再公開します。(初公開 2018年3月9日)

 平昌五輪の開幕を控えた今年(※2018年)1月中旬、韓国・ソウル中心部にあるホテルの一室に、鼈甲色の眼鏡をかけた大柄な男性がふらっと現れた。黒いハットとロングコート、首元には臙脂色のマフラーを巻き、いかにも紳士然とした雰囲気である。だが、ハットを取ると、あの特徴的なスキンヘッドが露わになった。男性はふいに人懐こい笑顔を浮かべた。

「どうも、許永中です。よろしく」

 許永中氏(71、※当時)は、バブルの時代を象徴する人物だ。「金融フィクサー」「バブルの怪人」……。あらゆるダークな形容句で語り継がれてきた。

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現在の許永中氏 ©文藝春秋

約3000億円が闇に消えた戦後最大の経済事件

 在日韓国人実業家だった許氏の存在が世に知られたきっかけは、1991年のイトマン事件である。約3000億円が闇に消えた戦後最大の経済事件だ。許氏は総合商社イトマンとの絵画取引をめぐる特別背任等の容疑で逮捕された。イトマン事件と1997年の石橋産業事件で実刑判決を受けた許氏は2005年に収監される。2012年には母国での服役を希望し、韓国の刑務所へ移送された。2013年9月に仮釈放となり、翌年9月に刑期満了を迎えた。現在はソウルに住んでいるという。