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ひとりでも老親を連れて行ける「親孝行温泉宿」とは?【入門編】

はじめての「親孝行温泉」入門編

2019/09/16

 人気の温泉エッセイストが療養中の老父を温泉に連れて行ったら、「狭いバリアフリー風呂では嫌だ」「大浴場に行きたい」と抵抗にあい……。

 そんな経験に基づいて、全国のバリアフリー宿の中から老親も満足し、ひとり娘でも連れて行ける「親孝行温泉」を厳選しました!

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「おら、でっかい風呂に行く!」

「お父さん、気持ちはわかるけど、お風呂で転んだらどうするの、骨折でもしたら、今度は動けなくなるよ。私が見ててあげられる貸切風呂にしてよ……」

「いや! おらはどうしても大浴場に行く。心配すんな」

 家業を継いで、桐ダンスをつくり続けてきた生粋の職人である父は、79歳のいまも頑固だ。時に、手におえないことがある。母と私を振り切り、杖をついて、男性用の大浴場に向かう父の後ろ姿を私は見送るしかなかった──。

 温泉エッセイストとして22年間、32カ国を旅し、温泉の魅力を伝える仕事をしてきたが、ひとつだけ私には大きな後悔がある。

 それは幼少の頃、事故により身体が不自由になった妹を温泉に連れて行けなかったこと。無理だと思い込んで諦めていたのだが、妹が他界して直ぐに私は「バリアフリー温泉」を知ることになる。宿のHPなどでは謳っていないが、実はバリアフリー機能を備えた宿はかなりあったのだ。そんなこともあり、ご高齢の方も、身体が不自由な方も温泉で寛いでもらえたらと、「バリアフリー温泉」について執筆することが私のライフワークとなった。

なにわ一水の201号室には車椅子で入れる露天が

「治ったら、温泉に行こうね」

 気付けば私も48歳。新潟で暮らす父は79歳、母が74歳と、そろそろ介護が見えてきた。子どもは私だけ。自分ひとりでの遠距離介護を覚悟しなければならない。

 そんな矢先の昨年秋に、父が体調を崩し入院した。約半年の入院期間中は「治ったら、温泉に行こうね」が両親と私の合言葉だった。 父は大病ではなかったが、回復には5カ月かかった。3週間ほどベッドで暮らす生活が続くと、たちまち足の筋力は弱まり、車椅子を利用しなければならない時期もあった。けれど、「温泉に行くため」と歩く練習に励んだ結果、杖があれば歩ける「要支援1」にまで回復したのだ。

 冬が去り、新潟に遅い春がやってくる頃、ようやく担当医から外出許可が下りた。このタイミングしかない。身体に不調がある人は機会を逃すと、また調子を崩して行けなくなってしまうことがある。GW連休明けの旅館が空く時期に、病院から一時外出して、温泉旅館の日帰りプランを利用することにした。