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連載近田春夫の考えるヒット

サカナクションの“独特さ”とヒゲダンの“ちゃんとした”楽曲――近田春夫の考えるヒット

2019/10/03

『忘れられないの』(サカナクション)/『宿命』(Official髭男dism)

絵=安斎 肇

 日本に未だ一向に育たないのが、ディスコに端を発した、いわゆる“ダンスミュージック”だろう。といって、人をして踊らせるという文化がそもそもこの国になかったのかといえば決してそんなことはない、一例に盆踊りがある。

 或いはこの列島では、かつてほどにはあまりそうした曲作りが喜びではなくなってきている?

 ただ、少なくとも'60年代、赤坂に初めての本格的ディスコMUGENが誕生して以来今日まで、この国に於いて積極的にダンスナンバーで勝負しようとする音楽家がほとんど登場/成功してこなかったのは――理由はともあれ――まぎれもない事実であろう。

 とはいえ、最近のjpopを聞いていると、漠然とではあるが、かかる状況にも変化の兆しが見えなくもないというか、何か「客を踊らせたい」といった意識をもって音作りに励むミュージシャンも増えてきている気はする。

 今週届けられたサカナクションの新譜にも、そうした気配は感じられた。

忘れられないの/サカナクション(JVCケンウッド)懐かしの8センチシングル。MVは『新宝島』と同じ映像ディレクター(田中裕介)。

 具体的に申せば演奏である。『忘れられないの』では“動画”が実演を模した作りになっているので分かりやすいのだが、そこにはハッキリとグルーヴに身を委ねる演奏者《プレイヤー》たちの表情が見てとれる。踊りたくなる気分を高め易いテンポ(BPM)で、ビートが組み立てられているのである。

 と書いていて気がついた。そういえばjpop全般がこのテンポという視点から論じられたことはほとんどない。

 クラシックを引き合いに出すのもナニだが、例えば「この部分はモデラートで」などという表現があるぐらいで、メトロノームというのも、あれは決してドンカマ(ビートを一定にする為のガイド用のクリック)なんかではなく、曲の速度を確認するための道具だ。いずれにせよBPMのもたらすものは、思っているよりは表現に於いて大きなものなのである。倍のテンポの葬送行進曲を想像していただければいわんとすることはお分かりいただける筈だ。あっそれは意味が違うか(笑)。

 

 さてOfficial髭男dismであるが、聴くまでは勝手に、その名前から、コミカルなことをやっている人たちだとばかり思い込んでいた。そしたら『宿命』が普通にちゃんとした楽曲でビックリ。ハイトーンのボーカルなども一度聴けば忘れられないほど強いし。ただ、歌詞が“いくらなんでも”のレベルでやたらと熱いので調べてみたら、『熱闘甲子園』に使われているとかで、なるほどそういう背景があったのね、と納得した次第……。

宿命/Official髭男dism(ポニーキャニオン)2012年結成の島根出身4人組POPバンド。朝日放送『熱闘甲子園』テーマソング。

 サカナクションの動画では山口一郎が、『新宝島』よろしく“ギクシャクとした振り付け”を披露してくれている。あの時はなんだか様になってないなぁ、と思ったものだが、その“独特さ”が今となってはひとつの“境地”となっていい味わいだ。“LDH的な”遊び慣れた/こなれた感じとは対極をなす身のこなしが、新鮮なのかも! 観てみてね。

 

 

 

 

今週の自伝「クールス(COOLS)のギター、ジェームス藤木の『自伝』がこないだ出たんだよ。これがすごく面白い。懇意にしているライター、下井草秀が関わった本で、ジェームス藤木と同世代のオレもインタビューで色々話しているよ」と近田春夫氏。「オレがどれくらいクールスに貢献していたかを知って、改めてオレをリスペクトしてくれ(笑)」

ちかだはるお/1951年東京都生まれ。ミュージシャン。現在、バンド「活躍中」や、DJのOMBとのユニット「LUNASUN」で活動中。近著に『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)。近作にソロアルバム『超冗談だから』、ベストアルバム『近田春夫ベスト~世界で一番いけない男』(ともにビクター)がある。

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出典元

進次郎 裏切り<全真相>

2019年9月19日号

2019年9月12日 発売

定価440円(税込)

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