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『凪のお暇』の中村倫也と話してわかった ”カメレオン俳優ではできない”緻密すぎる役者力とは

「僕、全然、憑依型の役者じゃないですよ」

2019/09/20

「僕、全然、憑依型の役者じゃないですよ」

 激動の年の終わりに、中村倫也はぽつんと言った。

「カメレオン俳優」でブレイクの中村倫也にインタビューしたあの日

 昨年は彼を取り巻く環境が一気に動いた年だった。朝ドラ『半分、青い。』の朝井正人(マァくん)役で幅広い世代にも認知されるようになり、この年のYahoo!検索大賞では俳優部門賞を受賞。それまでも業界内では高く評価されていた中村だったが、そのポテンシャルが一般にも広く伝わっての“ブレイク”だった。

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「2019年 エランドール賞」新人賞を受賞した中村倫也 ©AFLO

 初めて彼に話を聞いたのは2015年。主演舞台『ライチ☆光クラブ』のインタビューで、振付家と若手ダンサーとの鼎談(ていだん)。慣れない振りのダンスに苦心している様子をおもしろいエピソードを交え、明るく語ってくれたのを今でも覚えている。

 演劇や映画のプロモーションにおいて「取材日」というスケジュールが存在するのをご存知だろうか。簡単に言うと、舞台のチケット発売日や映画の公開日に合わせ、主演俳優やメインのキャストたちが、朝から晩まで入れ代わり立ち代わりで入ってくる取材陣から分刻みでインタビューを受け、衣装を着替えては撮影されるというなかなかハードな“儀式”だ。

 昨年末、中村倫也に話を聞く機会を得たのもそんな“儀式”でのことだった。

「よろしくお願いします」の言葉とともに、別室から移動してきた中村とふたり、テーブルで向かい合う。彼の登場でここだけ時が止まったようだ。約35分、単独インタビューという形で話を聞くのだが、そこにはひとつの“壁”があった。

 その壁とは、プロモーションとなる彼の主演舞台の台本最終稿がこの時点でまだ上がっておらず、キャラクターのアウトラインと作品の概要のみをもとに、記事の主軸となる話を展開しなければならないこと。あらかじめ台本を読めていない状態でのインタビュー……撮影が終わってから取材日が設けられる映画と違い、舞台の現場ではよくあることだ。しかし、聞き手としてはなかなかハードルが高い。

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