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信仰のあり方を問う、若い僧侶たちの成長譚――富田克也監督インタビュー

2019/10/04

 山梨県甲府市に生きる移民たちの苛酷な現状を描いた『サウダーヂ』。タイの歓楽街で働く娼婦たちと作りあげた『バンコクナイツ』。急激に変容する現実社会からフィクションを立ち上げ、実際の生活者と共に刺激的な映画作りを続けてきた富田克也監督と映像制作集団「空族」。10月14日から公開される新作『典座―TENZO―』は、仏教の曹洞宗をテーマにしたドキュメンタリーであり現実から生まれたフィクション。今年のカンヌ映画祭にも出品された。

 「典座」とは、禅宗の寺院で食事を司る役職を指す。映画は、調理や食事も重要な修行だとする曹洞宗の教えを説きながら、山梨の耕雲院の副住職をつとめる河口智賢とその家族をめぐる物語と、福島で被災し寺も檀家も失った兄弟子、倉島隆行の物語を並行して描く。そしてこの二つの物語の合間に、尼僧・青山俊董老師との対話が挟み込まれる。なぜ僧侶たちと映画を撮ったのか、どのように撮影は行われていったのか、富田克也監督に、新作『典座』についてお話をうかがった。

©山口貴裕

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取材対象から聞いた話をもとにフィクションとして再構築する

――空族の新作が仏教をテーマにした作品と聞いて少し驚いたのですが、まずは製作の経緯を教えていただけますか。

富田 僕の従兄弟である智賢を通じて、全国曹洞宗青年会から「世界に向けて曹洞宗を紹介する短編映画を作ってほしい」と依頼を受けたんです。世界仏教徒会議という毎回各国を巡回する大会が2018年11月に日本で行われることが決まり、そのホストとして曹洞宗が選ばれた。そこで世界中から集まってきた仏教徒の方たちに向けた15分程度の短編を作りたいと。言い出しっぺは倉島隆行会長(当時)です。彼は昔から映画がものすごく好きだったようで。「だったら僕の従兄弟に映画を作っている人がいるから一度会ってみますか」と全国曹洞宗青年会の副会長を務めていた智賢が僕に声をかけ、話が進んでいったわけです。当初は短編映画ということでプロモーション的なものを考えていたけど、予算も大幅に増え、長編映画として徐々に形を変えていきました。

――今作もこれまで同様空族という制作集団で映画を作られたわけですが、空族の映画作りは実際どのように行われていくのでしょうか? 

富田 僕らの映画作りは、まず対象となる相手と会って、徹底的に話を聞くところから始まります。最初に対象と直接接触していくのはだいたい僕かな。その後、脚本家の相澤虎之助とお互いが見聞きしたものをもとにシナリオを書き、それを取材対象である人たちに俳優として演じ直してもらう。スタッフは多くても十人程度、現場では全員が柔軟に役割をこなします。虎ちゃんは脚本家だけど現場ではスクリプターでもあるし、僕も監督だからってディレクターチェアにどんと座ってるなんてことはなくて、車止めから何からやれることは全部自分たちでやっていきます。

©空族

――ドキュメンタリーとフィクションの境目がわからないのがこの映画のおもしろさですが、実際どこまでがドキュメンタリーなのでしょうか。

富田 智賢と青山老師との対話部分以外は、すべて本人たちの話をもとに、フィクションとして再構築したもの。智賢の息子が重度のアレルギーを抱えている話など、実際の体験を彼ら自身が演じています。それは『サウダーヂ』や『バンコクナイツ』ともまったく同じやり方です。

 ただ福島パートでは、震災後に起きた出来事をもとに脚本を書き、それを三重の四天王寺の住職でもある倉島さんに演じてもらいました。津波でお寺を流され、檀家もお墓も家も家族もすべて失って自ら命を絶ってしまった同僚のお坊さんがいるとか、そういう話を青年会の人たちからいろいろ聞いて、フィクションとして描いているけど実際のお話でもあるわけです。