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元ベイスターズ・須田幸太「あのCSの記憶」――スイッチが入ったのは三浦大輔の引退試合だった

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

2019/10/05
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 今年の開幕戦をTVKの解説で呼んでいただいて、放送席から観ていました。今年は今永が間違いなく活躍するなというのは、あの試合を観ただけですが感じて。ただ、完全に個人の意見ですが、不安があるとしたら中継ぎ2年目の三嶋、あと国吉あたりがどこまでできるか。それが未知数だし、カギを握る部分でもあるなと思いました。あの日は8回まで今永が投げて、ヤス(山﨑)がしめて、ベイスターズにとってはこれ以上ないベストな形で勝てたと思います。

「これから色んなことがあって、最終戦を迎えるんだろうな」とあの日は……3月29日は試合を観てました。残念ながら優勝はできなかったんですけど、でも2位になって、CSをハマスタで開催できるというのは、私からしたらほんと羨ましいんです。

元ベイスターズの須田幸太。現在はJFE東日本のエースとして今年の都市対抗優勝に貢献 ©文藝春秋

三浦さんの引退試合でスイッチが入ってしまったんです

 ベイスターズ初めてのCS、2016年のCS前に、私は怪我をしました。肉離れでした。その日、木塚コーチに「今年お疲れ」って言われて、ポロポロ泣いちゃって。やっと、やっとCS出れたのに、私だけ終わってしまった。歩けなかったんです、その日は。ああ無理なんだなと思いました。GMからも「よくやった。お疲れ。よく休め」って労われて。

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 その年の9月29日、ずっとベイスターズを引っ張り続けてくれていた三浦さんの引退試合が行われました。私はバックネットでそれを見ていました。あの日のハマスタはすごかった。周りの人の熱気とか、三浦さんがマウンドから降りていく時、お客さんは総立ちで拍手して、泣いて。それを観ながら思ったんです。やっぱり、あそこに戻りたいなって。

 すごい変化を見てきました。2011年に入団してから辞める日まで。4、5年前からファンになった人には、ちょっと想像もつかないような変化がありました。「予告先発・須田」って発表されただけで、ハマスタに人が入らなくなるんです。平日は1万人いかないんじゃないかな。7000人とか8000人とかの中でやっていて、野次もすごい。お客さんはワンブロック貸し切りみたいな状況、今では信じられないですよね。

 2015年くらいから動員数が増えてきて。応援が一つになっていく感じ、ベイスターズファンが、一体となる感じがすごく伝わってきました。お祭りみたいじゃないですか、毎日が。点取ったらバカ騒ぎして。打たれたらハァってなって。143試合中の半分がお祭りだって私は思ってました。大勢の人に見られながらプレイができる、そのことを生きがいにしながら。野球をやっててよかったなって思ったし。たぶん横浜じゃなかったらそのことに気づけなかったかもしれない。

 あの三浦さんの引退試合でスイッチが入ってしまったんです。とにかくやらなきゃ、間に合わなくてもいいから調整しようと。

「あの三浦さんの引退試合でスイッチが入ってしまったんです」

なんだ、この俺を待っててくれた感はって

 そこからは治すことだけを第一に考える日々。キャッチボールはできたので、キャッチボールしながら肩は休ませないで。色々な方に助けてもらいました。肉離れ専門の先生のところに通い、毎日スーパー銭湯で交代浴をしたり。10月の8日か9日だったと思う、MRIを撮って、最終判断をドクターに仰ぎました。はっきり憶えてます。チームドクターの山﨑(哲也)先生が「止めない」と。「俺が責任を持つ」と。これはもうやるしかないと思いました。チームドクターにここまで言わせてしまったんだから、絶対に怪我せずに結果を残すしかないって。

 ただ時間はありません。フェニックスリーグで調整する案も出ましたが、それじゃ間に合わない。全部すっ飛ばしての、ぶっつけ本番でした。13日にはもう広島に向かって、14日からチームに合流して。

 あのCSファイナル第3戦、投げることは決まっていたものの、でもだいぶ後回しにはされてたと思います。井納が7回まで頑張ってくれて、あぁ今日は出番ないなぁぐらいで待ってた。でも三上が打たれて、(田中)健二朗が出てくらいで私はスイッチを入れました。

「満塁か」と、あの時はたぶん私が一番思ってました。でも、みんなはピンチだと思ってるけど、こっち的には一番おいしい場面かなとも思っていました。なんだ、この俺を待っててくれた感はって。三上から健二朗に代わった時に電話がかかってきて「丸を出したら行くぞ」って。私は「はい」って答えていました。

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