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「増えすぎたサルが、クマを囲んで威嚇している」白山のクマ猟師が語る“狩猟文化”の現在地

「増えすぎたサルが、クマを囲んで威嚇している」白山のクマ猟師が語る“狩猟文化”の現在地

猟師は年々減っているが、狩猟は一つのコミュニケーションでもある

2019/10/14
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 石川県と岐阜県にまたがる白山。その石川県側のふもと、白山一里野温泉に民宿・岩間山荘がある。猟師のご主人が獲ってきたクマやイノシシなど、山の幸を取り入れた料理を出すことで知られる宿だ。

冬にはスキー客でにぎわう岩間山荘。源泉から引いてきた温泉も楽しめる

今のお客さんは、流通してない料理を好む

 もっとも、今でこそ狩猟で獲った肉を提供している岩間山荘だが、もともとは宿泊客に出すようなことはなかったという。ご主人が語る。

「山で獲ってきて皆さんに提供するサービスは、最初はなかったんです。僕のオヤジも息子も銃を持っているんだけど、『獲った後の反省会』って言ったら一番いいかな。内臓でも肝臓だったり心臓だったり、そういうものを僕らが食べているんですよ。そしたら、たまたまお客さんが通りかかって、『お前らばかり食わんで皆に食べさせたらどう?』って、提供し出したのは20年ほど前でした」

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 狩猟で獲った肉を宿でも提供するようになったが、最近はそれ目当てに訪れる客も増えているという。

「今って食べられないもんってないじゃないですか。牛にしたって豚にしたって、流通さえしてればお金を出せば食える。でも、イノシシとクマとかノウサギとか、流通してない野生のものを今のお客さんは好む。だから、東京、名古屋、大阪その近辺から、ネットを見てお出でになるお客さんが今すごく多い。

 でも、そんな食べる種類ってないんだね。焼いて食べるか鍋にして食べるか。うちで出せる範囲内で食べてもらっています」

宿で出されるクマ肉を実際に食べてみると……

 一口にクマの肉と言っても、自然のものだけに色々と条件があるようだ。女将さんによれば、どんぐりをたくさん食べたクマの肉が美味。またここでは脂の乗った時期のクマでなく、冬眠明けのクマの肉が美味しいという。

 宿で出されるクマ肉を実際に食べてみる。醤油ベースの鍋で出されたクマの肉は、強いて言うなら牛肉に近い味だ。筆者は以前、ツキノワグマとヒグマの肉を食したことがあるが、その時の印象では同じツキノワグマでも牛に近い乳臭い肉という記憶が残っている。これは控えめの野趣を残しつつも、旨味を持った牛肉に近いという感じだ。

岩間山荘の名物料理「クマ鍋」

 この地域、白山麓はかつて雪が降る半年間は“陸の孤島”になっていた。このため、独自の食文化や白山信仰が人々の暮らしに根付いている。岩間山荘の女将さんは、こう語っている。

「私たちは、水や木々や、きれいな空気を含めて、山からの“いただきもの”をおすそ分けしてもらって生かされています。はるか昔から猟師だけでなく山奥に住まわせていただいているすべての者が、山から命や恵みをいただいてます。季節の山菜やキノコ、木の実なども同様です。

 そして、自然に包まれて暮らすなかで、山々にお返しをしているつもりです。この文化や伝統は、これからも継承していきたいと願っています」