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なぜいま小松左京が注目されるのか――樋口真嗣監督が『日本沈没』から学んだこと

樋口真嗣(映画監督)――クローズアップ

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樋口真嗣さん

「小学校2年のときに映画『日本沈没』(1973年)を見て衝撃を受けました。親が持っていた小松左京先生の原作を読み、翌年にはじまったTVドラマ版『日本沈没』も欠かさず見ていました。お年玉で買ったテープレコーダーのマイクでTVのスピーカーの音を録音し、すり切れるまで聞き返しました。台詞や効果音、音楽の大切さを、そこで学んだ気がしますね」

 と、2006年版の映画『日本沈没』を監督した樋口真嗣さんは語る。

 世田谷文学館で「小松左京展―D計画―」(10月12日~12月22日)が開催されるのを受けて、同区成城の澤柳記念講堂ホールで、11月30日土曜日、「小松左京音楽祭」が行われる。小松左京作詞の楽曲のほか、映画やラジオドラマ版、TV版の『日本沈没』の劇伴音楽が、フルオーケストラで蘇る。樋口さんはこの音楽祭の呼び掛け人のひとり。なかでTV版音楽の復活に力をいれた。

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「TV版は、フィルムは残っていたのですが、音楽のテープの方は保存状態が悪く聴けなくなっており、譜面も残っていませんでした。

 それでぼくが映像から音楽の流れるシーンを抜き出して、ほかの物音と重ならない箇所をできるだけ切り貼りして再現し、それを譜面に起こしてもらいました。

 沈没を予見する田所博士のテーマ、由美かおるさん演じる主人公の恋人の登場シーンに流れる愛のテーマ。災害で誰かが亡くなったときに流れる曲や軽快なアクションシーンの音楽など、選りすぐりの曲を、当日は演奏していただく予定です。ビッグゲストとして、TV版の主題歌を歌われていた五木ひろしさんにもご登場いただきます」

 この7月、NHK-Eテレの名物番組「100分 de 名著」でも、小松左京が取り上げられた。「実はいまぼくらが制作中の『シン・ウルトラマン』(監督・樋口真嗣)にも、企画・脚本を担当する庵野(秀明)の発案で、ある小松左京的な要素を入れる予定です」と樋口さん。なぜいま小松左京が注目されるのか。

「いまの日本社会が、小松先生が望んでいない方向に向かっていると、感じているからではないでしょうか。戦争で日本が愚かな選択をしてきたことを目の当たりにした小松先生は、争いに対して一貫して異を唱えた人でした。社会の大きな動きに対して、個人に何ができるのか、エンターテインメントのジャンルで書き続けてきた人です。

樋口真嗣さん

 いま、テレビ番組や雑誌の誌面を見ても、作り手が“そっちの方が、お客さんが喜ぶから”という判断で、流れていっています。戦前の新聞報道もそうでしたが、特定の声に応えてそこだけでボールを投げ合っているうちに、一部の声だけが大きくなっている。逆に流れと違う発言をすると、すごく叩かれますよね。こういう怖い時代だからこそ、小松先生の本を、もう一度手にとってもらいたいと思いますね」

ひぐちしんじ/1965年、東京都生まれ。映画監督。監督作品は『のぼうの城』『進撃の巨人』など。『シン・ゴジラ』で日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞。

INFORMATION

『小松左京音楽祭』
問い合わせ:音楽祭事務局 西耕一 jcacon@gmail.com
URL:https://3s-ca.jimdo.com

なぜいま小松左京が注目されるのか――樋口真嗣監督が『日本沈没』から学んだこと

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