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携帯の電波は入らない、猿がお湯を舐めにくる……それでも浸かりたい“エクストリーム温泉”

携帯の電波は入らない、猿がお湯を舐めにくる……それでも浸かりたい“エクストリーム温泉”

白山麓の“エクストリーム温泉”その2

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 富士山、立山に並んで三霊山に数えられる白山。古くから石川県・白山市をはじめとする白山麓地域で信仰の対象となってきた山だが、同時にランクCの活火山である。

 活火山である、とはつまりどういうことか。周辺に、温泉が湧きまくっているということである。

 以前は「そのへんの川でも石をめくると湯が湧いてきた」(地域の人)というくらい湯量に恵まれた白山麓地域一帯では、温泉はすべて源泉掛け流し。おまけに山深い地域だから、野趣あふれる秘湯がいくつも存在する。噴泉塔(温泉の噴出口付近で温泉成分が空気に触れて固まり、塔のような形状になったもの)を見られる場所も少なくない。

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 災害による4度の倒壊をサバイブし、営業を続ける秘湯「中宮温泉 にしやま旅館」と、「日本の滝百選」に選ばれた「姥ヶ滝」を目前に温泉に浸かることができる「親谷の湯」を訪ねた。

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◆ ◆ ◆

「ダムが決壊して流された(笑)」

「中宮温泉 にしやま旅館」は、白山市から岐阜県の白川郷に抜ける観光道路「白山白川郷ホワイトロード」のすぐそばにある。紅葉の名所でもある「ホワイトロード」では、秋になると観光客の車列が延々と並ぶというが、冬はあまりに雪が深く積もるため、道路自体が閉鎖される。それだけ寒さが厳しい地域なのだ。

「中宮温泉 にしやま旅館」外観。「日本秘湯を守る会」発足時から加入していた由緒正しい旅館だ

 そんな場所にあるものだから、にしやま旅館も冬季は営業ができない。それどころか、雪崩をはじめとする災害のせいで旅館が4度も倒壊しかけた歴史があるという(うち1回、完全に倒壊)。5代目館主・西山喜一さんは語る。

「1回目は大正時代の泡雪崩。休業中に起こったものですから、春戻ってきたときに初めて、(建物が)みんななくなっているのに気づいた。

 それから昭和9年の大洪水。梅雨の時期の大雨で、ここからだいたい500メートルくらい上の場所が地滑りを起こして、土砂が川に埋まってダムになったんですよ。それが8月に決壊して、それでまた一部流されたの(笑)。

5代目館主・西山喜一さん

 川の水がだんだん増えてくるし、これは危ないということで裏山に逃げて上がっていたので、人は無事だったようですけれども」

 他にも昭和55年と平成8年に豪雪で建物が一部倒壊したという。

 こんなに厳しい地域でなぜ旅館を経営するのか。理由は、歴史ある温泉が湧いているからだ。

「中宮温泉には、1300年前に泰澄大師というお坊さんが白山を開山された際に、傷ついた白鳩が浸かっているのを見て発見された、といういわれがあるんです。

 中宮温泉の湯は、胃腸に効くことで知られております。今でも胃腸の調子が悪い患者に、医者がここでの湯治を勧めるんですよ。特に飲泉が効くんです」(西山さん)

 取材中、地域の人たちが入れ替わり立ち替わり、旅館の前にある飲泉所で湯を汲んでいく。その効用を知ってか知らずか、白山麓の住民たちを獣害で悩ます猿たちが温泉を舐める光景も目撃した。

「にしやま旅館」前の飲泉所
お湯を舐めていた猿

 そんな泉質に恵まれ、中宮温泉は古くから湯治客で栄えた。