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アマゾン流通センターに潜入してわかった、陰鬱なヒエラルキーと過酷なノルマ

『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)より

2019/11/01

〈いつのころからか、家の中が《Amazon.co.jp》のロゴが入った箱であふれるようになった。書籍や雑誌を買うのはもちろん、バックパックやワイン、洗剤や乾電池まで、アマゾンで買うようになった〉

潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)

 ジャーナリスト・横田増生氏の新著『潜入ルポ アマゾン帝国』(小学館)は、このような書き出しから始まる。かつて「ネット書店」だったアマゾンも、今ではムービーや音楽などのコンテンツ、AIアシスタント「アレクサ」、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などに事業の幅を広げ、以前とは比べものにならない規模にまで成長した。

 アマゾンは生活習慣の一部となりつつある。

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 2005年に出版された『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(文藝春秋)を執筆した横田氏は、JR京葉線沿いの市川塩浜にあったアマゾンの物流センターに潜入している。そして、『潜入ルポ アマゾン帝国』では、アマゾンのなかでも国内最大規模といわれる小田原物流センターで働いた。ここでは、同書の第1章「15年ぶり2度目の巨大倉庫潜入」から一部を抜粋する。

◆ ◆ ◆

アルバイトがアルバイトを管理する

 送迎バスに乗って、初日の午前8時半すぎに物流センターに到着すると、2階の休憩室でエヌエス・ジャパンの女性担当者が、私の顔を見つけて声をかけてくる。

「おはようございます。今日からよろしくお願いします」

 彼女の態度に威圧感はない。言葉も丁寧である。こちらも同じようにあいさつを返す。

 私がカットソーの上にセーターを着ているのに気づくと、彼女は「それじゃ作業をはじめるとすぐに暑くなりますよ」とアドバイスしてくれた。純粋な親切心から出た言葉であることは、その表情からわかった。

 しかし、以前に潜入したときは冷暖房完備という触れ込みであったにもかかわらず、冬はまったく暖房が効かず、下着を重ね着しても、凍えながら作業をした記憶が鮮明に残っていたので、彼女の言葉を無視してセーターを着たまま作業現場に入った。

写真はイメージです ©iStock.com

 しかし、結果は、ピッキング作業を30分もしていると、セーターを脱ぎ、カットソーの袖をまくらなければならないほど暑くなった。長期で働いているアルバイトによると、「冬に汗ばむのはどうにかなるのだが、夏になると救急車で搬送される人が出るほど暑くなる」という。

 そういえば、米ペンシルベニア州の地方紙が、地元にあるアマゾンの物流センター内の気温が、夏には華氏100度(摂氏38度)を超え、一夏の間に15人以上が熱中症で倒れて、救急車がセンター付近に待機しているという記事を書いていたことを思い出した。以前は寒さとの戦いであったが、今は暑さとの戦いに変わってきているのだろうか。

 作業現場に行くと、青のビブス(ゼッケン)に《リーダー》と書かれた40代のおかっぱ頭でメガネをかけた女性が、作業初日のアルバイト約10人を集めてこう言い放った。