あけましておめでとうございます。本年も歴史・時代小説をよろしくお願い申しあげます。ついでにこのコラムも。
と書いた舌の根(指の根?)も乾かぬうちにナンですが、昨年の話を。年末に「2015年のベスト時代小説」てな記事や対談を幾つかやらせていただきました。私があげたのが、飯嶋和一『狗賓童子の島』(小学館)、木下昌輝『人魚ノ肉』、澤田瞳子『若冲』(ともに文藝春秋)の3冊。歴史・伝奇・芸術という3分野をそれぞれ代表する傑作揃いで、間違いなく2015年を代表する歴史時代小説です。
でもね、あれって実は年末に間に合わせるために11月頭とかに〆切があって、今年のベストと言いながら、10月末以降に出た本は入れられないわけよ。でもってまた、そういうときにいいのが出るんだよねえ。中でも「もっと早く読んでたら!」と臍を噛んだのが、前回のコラムでも名前だけちょこっと出した梶よう子『ヨイ豊』(講談社)。
梶よう子は、デビュー当時から注目して追いかけていた作家のひとり。その時代を通して現代を浮かび上がらせる作品が実に上手いのよ。たとえば『夢の花、咲く』(文春文庫)は安政の大地震がテーマ。お救い小屋(避難所)ではトラブルが相次ぎ、火事場泥棒や建材の不当な値上げなど、問題は山積。なのに幕府は、黒船来航という外圧に右往左往、老中が変わったりして政権争いの真っ最中で庶民の方を向いてくれない。復興に立ち上がったのは当の庶民たち。どう? 何かと似てない?
そう、『夢の花、咲く』はそのまんま、東日本大震災のあと、被災地そっちのけで領土問題やTPPの外圧に揺れ、政権の揚げ足取りに明け暮れていた、あの時の日本の鏡映しなわけ。しかも『夢の花、咲く』の主人公は仕事よりも恋よりも自分の趣味(朝顔栽培)が大事という、草食系のオタクなのだ。どうですか、この現代っぷり。